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hyejin kang/iStock
1. 日本の平均給与 名目・実質
前回はOECDで公表されている平均給与について、その考え方や計算方法を確認してみました。
国民経済計算(National accounts)で集計される賃金・俸給(Wages and salaries)を雇用者数(Number of employees)で割った雇用者1人あたりの平均賃金に対して、フルタイム労働比率をかけることで調整した数値であることがわかりました。
パートタイム労働者もフルタイム働いたと見なしたフルタイム相当労働者の平均給与という事になるようです。
今回はOECDで公表されている平均給与の名目と実質の違いについてご紹介したいと思います。
GDPの支出面や生産面には、物価指数(デフレータ)が計算されて名目、実質の数値も公表されています。一方で、賃金・俸給や営業余剰などの分配面にはデフレータが存在しません。
OECDの統計データによれば、平均給与のデフレータには民間最終消費支出デフレータが用いられるという事です。
家計の収入や消費に最も関係の深い、民間最終消費支出のデフレータを実質化のための物価指数として用いるという事ですね。
日本の毎月勤労統計調査による実質賃金指数に用いられているのは、消費者物価指数です。
実は実質化の物価指数の違いによって、計算される実質値が大きく異なる事は以前ご紹介しました。(参考記事: 実質賃金低下の謎)
早速日本のデータを見てみましょう。
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図1 平均給与 名目・実質 日本
OECD統計データ より
図1が日本の平均給与の実質と名目です。
この平均給与は、先述した通り、GDPに含まれる賃金を雇用者数で割って平均値を出し、パートタイム労働者がフルタイム働いたと見做した調整がされている数値です。
何も加工せず、公表されているデータをそのままグラフ化しています。実質の基準年は2022年です。
日本の場合は、名目だと1997年をピークにして減少し、2013年あたりから上昇傾向となります。ピークよりは超えていませんが、リーマンショック前の水準は超えているようです。
一方で実質を見ると、1990年代から横ばいが続いていますね。
また、実質化の基準年は2022年なので、2022年に名目と実質は一致します。
日本の平均給与は長期的に見ると、名目でも実質でも停滞が続いているという事になります。
2. アメリカ、ドイツの平均給与 名目・実質
続いてアメリカのデータも見てみましょう。
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図2 平均給与 名目・実質 アメリカ
OECD統計データ より
図2がアメリカのデータです。
2022年で名目と実質が一致するのは同じですが、どちらも右肩上がりで成長している事がわかります。
よく見ると過去の数値になるほど、名目より実質の方が大きい事がわかりますね。
傾きは名目の方が急です。
実質化の基準年が2022年のため、過去に遡るほど実質の方が大きくなるという事になります。
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図3 平均給与 名目・実質 ドイツ
OECD統計データ より
図3がドイツのグラフです。
やはり名目も実質も右肩上がりで上昇していて、過去に遡るほど実質の方が大きな数値となっています。
傾きはアメリカと比べるとやや緩やかですね。
日本は名目も実質も停滞が続いていますが、アメリカ、ドイツは成長が継続している事がわかります。
3. その他の国の平均給与 名目・実質
その他の主要国についても見てみましょう。
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図4-1 平均給与 名目・実質 フランス
OECD統計データ より
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図4-2 平均給与 名目・実質 イギリス
OECD統計データ より
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図4-3 平均給与 名目・実質 カナダ
OECD統計データ より
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図4-4 平均給与 名目・実質 イタリア
OECD統計データ より
図4が上からフランス、イギリス、カナダ、イタリアの平均給与です。
フランス、カナダはドイツ、アメリカと同様に名目でも実質でも上昇が続いています。
イギリスはリーマンショックを機に名目成長率がやや緩やかになり、実質が横ばいとなっています。
イタリアは名目成長はしていますが、実質では横ばいです。
日本とイタリアは平均給与の実質は横ばいですが、名目ではイタリアは成長しているという点が異なりますね。
4. 平均給与の実質成長率
次に、平均給与の実質化に使われる物価指数である民間最終消費支出デフレータについても見てみましょう。
1991年を基準(1.0)とした指数(倍率)で表現してみます。
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図5 民間最終消費支出 デフレータ
OECD統計データ より
図5が主要先進国の民間最終消費支出デフレータです。
日本は1997年をピークにして減少傾向が続き、2014年から緩やかに上昇しています。
他の主要先進国は基本的に右肩上がりに上昇していますね。
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図5 平均給与 実質成長率
OECD統計データより
図5が各国の平均給与 実質成長率を比較したグラフです。1991年が基準(1.0)となります。
日本とイタリアは横ばいが続いていますが、他の主要先進国は上昇しています。
イギリスはリーマンショック以降横ばい傾向ですが、他の主要先進国は上昇が続いていますね。
1991年の水準からすると、日本とイタリア以外は1.3~1.5倍程度になっています。韓国に至っては2倍近くに達しています。
他の主要先進国は名目の平均給与が物価以上に上昇していて、実質でも成長しているという事になります。
日本は、名目がやや減少していますが、物価が近年減少した分だけ嵩上げされて実質では横ばいという形です。
イタリアは逆で、名目では成長していますが、物価も同じだけ上昇していて、実質では横ばいですね。
5. 平均給与の特徴
今回はOECDの統計データで公表されている、平均給与の名目・実質について各国の数値をご紹介しました。
基本的には日本以外の各国とも右肩上がりに成長していますが、次のような点が異なるようです。
- 名目も実質も停滞している日本
- 名目は成長しているが実質で停滞しているイタリア
- 名目も実質も成長している他の主要先進国(ただしイギリスはリーマンショック以降実質で停滞)
1人あたりGDPに関しては、日本は名目では停滞していますが、実質では成長しています。また、毎月勤労統計調査では、日本の実質賃金では減少が続いているという結果もあるようです。
そもそも名目で停滞していること自体が特殊なわけですが、日本では実質さえ成長していれば問題ないといった意見も多いようです。
平均給与ではその実質ですら停滞、あるいは減少している事になりますね。
労働者への分配である給与が増えなければ、消費も増えません。
皆が安いものを求めるのも当然ですね。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2023年10月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。