中小企業であれば、お金周りのシグナルは比較的見えやすいといえます。社長が同じ職場にいたり、社長の配偶者が経理をやっていたりすれば、銀行などの金融機関とのやりとりや税理士とのやりとりなども、窺うことができることもあるでしょう。
ですから、このあたりの情報に敏感になることがポイントです。一方で、大企業や上場企業ともなれば、なかなか会社のお金周りの情報を掴むのは簡単ではありません。
上場企業であれば、財務状況をウェブサイトなどで公開しているため、多少は情報が手に入りますが、実際のお金の動きがわかるわけではありません(公開されているからといって、正しいとも限りませんし)。
大企業・上場企業の場合、キーとなるのは「経理部」です。もし、あなたが会社の財務状況を知りたい、シグナルを探したいと考えたら、経理部に入るか、経理部との関係性をつくるのがひとつの方法です。
もっとも、経理部の情報統制はなかなかのものですから、情報を手に入れるのは難しいかもしれません。ただ、お金というのは社長と同列くらい、会社の維持に必要なもの。
「極論言えば、『お金があって、潰れる会社はない』」と言うのは経営コンサルタントの横須賀輝尚氏。今回は、横須賀氏の著書「プロが教える潰れる会社のシグナル」より、再構成してお届けします。
補助金と助成金について
いま、国内には補助金や助成金と言われる主に中小企業の支援制度があります。一定の条件を満たすと、国や地方自治体からお金がもらえるというものですね。ちょっと簡単に解説しておきましょう。
どちらも国や地方自治体などが行っている支援制度。補助金は経済産業省が管轄するものが多く、代表的なのは、設備投資などに補助が出る「ものづくり補助金」、小さな会社の販路開拓を支援する「小規模事業者持続化補助金」、売上や業務効率を高めるITツール導入のための「IT導入補助金」などです。
これに対して助成金は、厚生労働省が管轄するもので主に雇用に関する支援。こちらも代表例は、社員の正社員化を支援する「キャリアアップ助成金」、コロナ禍で有名になった「雇用調整助成金」などがあります。
どちらも返済不要のお金で、銀行からの借り入れと違って返済する必要がありません。国が支援していることもあれば、地方自治体がそれぞれ独自に支援制度を敷いていることもあります。なので、上手く使うことができれば、中小企業にとってはとても助かる制度だといえます。
大きな違いとしては、厚生労働省管轄の助成金は条件さえ満たせば、ほぼ間違いなく受給できるのに対して、補助金は条件を満たしても必ず受給できるというわけではないという点です。
補助金は、事業計画をつくり、補助金受給の申請をします。申請後、「審査」と「採択」という段階があります。要は、この事業計画で補助金を出しても良いかどうか、検討するフェーズがあるわけです。
結果として、補助金申請の条件を満たしていても、採択されない場合もあり、補助金は申請さえすれば絶対にもらえるわけではないのです。そして、補助金も助成金も、基本的には「後払い」。補助金は設備投資などを先に行い、あとからその金額が補助されるという仕組み。
助成金も、各助成金によってまちまちですが、もらえるのは申請から半年後とか、そんな感じです。
ちなみにここで言うことではないかもしれませんが、新聞やテレビ等で報道されているとおり、これらの申請に不正があると「不正受給」といって、厳しく処罰されます。なので、「不正受給、ダメ・ゼッタイ」です。
制度趣旨を考えない助成金・補助金受給は危険?
会社の運転資金が心許なくなると、社長は自然と金策を考え始めます。銀行からの借り入れをすることもあれば、事業の見直しを考えることもあると思いますが、突然「補助金」「助成金」と言い出したら少し気にかける必要があると言えます。
まず、こうした制度を活用すること自体は良いことです。国や地方自治体が提供している適法な制度なので、上手く活用すること自体は良きことです。しかしながら、補助金にも助成金にも「制度趣旨」ってものがあって、ただジャブジャブお金を配るものではないという点にも注意が要ります。
どちらも基本は企業の支援。助成金ならば、雇用を促進するために出るわけです。補助金も同じ。ものづくりやIT導入を支援するために出る。コロナ禍初期に配布された一律の給付金みたいなものとはちょっと違うのです。
ですから、実際は「おいしい話」ってあんまりないのです。設備投資系の補助金でも、最初にお金が出ていって、その2/3とかが補助されるわけで、利益が出るわけでもない。助成金なら、例えばパートやアルバイト、契約社員を正社員にすることなどに助成金が出る。
正社員になれば、当然給与も以前のままというわけにもいかないでしょうし、また近年は、助成金の受給要件に昇給が含まれていることもあり、企業の負担は当然増える。
だからこその助成金なわけです。
だから、こういった制度趣旨を考えず「ただでもらえるものは、もらっておきたい」とか「補助金とか助成金とかで、楽にお金を手に入れたい」って考えているのは本末転倒で、社長としてそれ大丈夫なの? ということになります。
まあ、私も経営者なので、お金がほしいという気持ちはわかりますが……。その精神性にちょっと危険なシグナルかな、ということです。
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横須賀 輝尚 パワーコンテンツジャパン(株)代表取締役 WORKtheMAGICON行政書士法人代表 特定行政書士
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ1,700人以上が参加。著書に『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、『士業を極める技術』(日本能率協会マネジメントセンター)、他多数。
会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業 | 横須賀輝尚 https://www.amazon.co.jp/dp/B08P53H1C9
公式サイト https://yokosukateruhisa.com/
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年10月16日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。