1月の下院議長混迷ドラマが、再び幕を開けつつあるかのようです。
つなぎ予算が成立した後にマッカーシー下院議長(当時)が解任された結果、下院ナンバー2のスカリス院内総務が議長に立候補しましたが、10月13日未明に離脱を表明。スカリス氏が共和党内での無記名投票で、113対99と、同じく立候補したジム・ジョーダン下院議員に勝利したものの、党内でスカリス氏一本化が進まなかったためです。
スカリス氏の離脱表明で、再度党内で後任候補を選ぶ投票を実施した結果、ジョーダン氏が124対81で議長候補に浮上しました。ジョーダン氏は議員連盟フリーダム・コーカスの創設者の一人で初代会長であるように、スカリス氏より保守強硬派色が強い人物です。また、足元でバイデン大統領の弾劾調査を主導するほか、トランプ前大統領への起訴が正当か否かを調査する小委員会の旗振り役で、トランプ氏はジョーダン氏の下院議長就任に支持を表明済みです。
共和党は221対212の僅差で多数派を確保するなか、バイデン氏の弾劾やトランプ氏の起訴に関する妥当性など先頭を切って調査するジョーダン氏に対し、民主党が支持を表明するはずはなく、共和党単独で過半数を確保しなければなりません。従って、過半数の217議席を獲得する上で、造反は4人までしか許されない綱渡り状態が続きます。
それにもかかわらず、ジョーダン氏が第1回投票で下院議長候補に選出された後、同氏を支持するか否かを問う信任投票では、賛成152票に対し反対は55票と党内で結束できないまま。反対した55票には、スカリス支持派の他、共和党穏健派が名を連ねます。異例の事態を受けて、マッカーシー氏がジョーダン氏の支持を求める演説を行ったほどです(スカリス氏が勝利した直後は、支持を要請せず)。
下院議長選で共和党内が結束できなければ、選出まで1月3~6日の4日間、15回に及んだ当時以上の混迷がもたらされかねません。当然ながら審議は停止したままで、イスラエルやウクライナへの支援はおろか、11月17日に期限切れを迎えるつなぎ予算の次を策定・成立できず、政府機関閉鎖のリスクが再燃します。
とはいえ、頭を抱えてばかりはいられず…泥仕合の米下院議長選では、今後どのようなシナリオが想定されるのか、頭の体操をしておきましょう。
① ジョーダン議長誕生に向け共和党内が結束する
→現時点で結束への道筋は険しいものの、政府機関閉鎖の回避で協力できるか。ただし、歳出削減の急先鋒なだけに、民主党との予算協議が難航するリスクも。
② 第3の候補が台頭
→スカリス氏、ジョーダン氏以外で議長職に意欲を示した議員が存在することは確かだが、指導力と統率力の欠如に直面しかねず。一部ではトランプ前大統領の下院議長就任も取り沙汰されていますが、公判と大統領選を控え現実味に乏しい。
③ マクヘンリー下院臨時議長に権限を付与
→マッカーシー氏の失脚後、マクヘンリー下院議員が臨時議長に就任したが、その権限のほとんどは下院議長選挙の投票の呼びかけに限られる状況。これを受け、下院の主要な超党派グループの問題解決議員連盟の民主党議員数名は、マクヘンリー氏に15日毎に議長権限を拡大し、歳出法案やウクライナ・イスラエルへの資金援助など、限られた問題に対処できるよう提案済み。民主党は、拡大された権限と引き換えに、「規則適用の停止」(新たな修正案は提出できず、対象の動議及び法律案についての討論の時間を制限し、投票総数の3分の2以上で可決される仕組み)の権限を多数派と少数派で均等に配分するよう主張しているが、この取引が十分な支持を得られるかどうかは不透明。
④ 下院議長を解任されたマッカーシー氏の返り咲き
→可能性としては極めて低いが、マッカーシー氏を支持する下院議員は少なからず存在する。
⑤ 民主党とタッグを組んで新たな候補を選出
→民主党は、1月のすべての下院議長投票と同様にハキーム・ジェフリーズ少数党院内総務に投票する見通しで、共和党穏健派が民主党と協定を結び超党派で過半数を獲得してジェフリーズ氏を議長として選出するシナリオも、絶対ないとは言い切れない。しかし、全ての下院議員は来年に改選を迎え、民主党支持に回るのは政治的自殺行為に等しい。しかも下院の超党派グループである問題解決議員連盟の共和党議員でさえ、8人の共和党強硬派だけでなく民主党議員がマッカーシー議員の解任動議を可決させた事実を踏まえ、対立軸を越えて活動することに嫌気が差しているもよう。
どれもハードルが高そうですが、リンカーン元大統領の名言「できること、やれることを決断すれば、方法はその後で見つかるものだ」との言葉を信じて結果を待ちましょう。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2023年10月17日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。