政府会議の委員になるための秘訣:選考プロセスや委員に必要なことを徹底解説

政府会議はみんなの意見を聞く場

自分のいないところで、大事なことを勝手に決められていた。そのような経験をされたことがある方もいるのではないでしょうか。

誰でも自分に関わることを勝手に決められたらいやなものですが、こと政策については、あまりにも多くの人に関係するものなので、その政策によって影響を受ける人すべてを意思決定プロセスに参加させることはできません。

国会の場で法律や予算が議論される時には、国民から選挙によって選ばれた議員が、国民を代表して議論(質疑)を行い、政策を決定します。この国民を代表して、選挙で選ばれた国会議員が政策決定を行うことを間接民主主義といいます。

日本では、間接民主主義が採用されていますが、そんな中でも、選挙で選ばれていない官僚が政策決定プロセスの重要な部分を担うことはよく知られています。

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法律を例にとると、政府が国会に法案を提出する場合、一般的なプロセスは以下のようになります。

1)官僚が案を作成
2)審議会などの政府の会議で議論
3)与党(自民党の場合、部会⇒政調審議会⇒総務会)において、了承 ※ 与党が了承を与えた法案には、党議拘束がかかり与党議員は賛成することになります。
4)内閣が閣議決定後、国会に提出
5)国会で審議し、可決

このプロセスのうち官僚が主導権を握るのは、主に

1)官僚が案を作成
2)審議会などの政府会議で議論 のフェーズです。

まず、「1)官僚が案を作成」ではこれまでの経緯や、現行制度の課題を踏まえた政策のたたき台を官僚が作ります。

2023年の通常国会では、医療保険法関係の制度改正がされました。この改正の議論にあたっては、2022年10月13日に厚生労働省が開催した医療保険部会で、医療費適正化計画(国全体の医療費を適正な価格に保つことを目指すための計画)の制度改正について、論点提起がされています。

10月がどのようなタイミングかというと、次年度の1月から始まる通常国会に提出する法案の中身を議論し始める、序盤のフェーズです。

この時、例えば「実効性確保のために都道府県がとりうる方策」については、

都道府県が、都道府県計画の目標の達成・医療費適正化の推進に向けて、保険者・医療関係者等の協力を得て実効性のある取組を実施するためにとりうる方策について、どう考えるか

という問題提起がされました。

これについては、2023年2月24日 の医療保険部会で都道府県の責務や取り得る措置の明確化として、

医療費が医療費見込みを著しく上回る場合等の要因分析・要因解消に向けた対応の努力義務化

が、最終的に実施すべき政策として、公表されました。

そしてこの内容を踏まえた法案が国会に提出され、可決されています。

政府会議の委員の役目(官僚が作った政策に意見を伝え、時に修正を促す)

今回お示ししたケースでは、当初の官僚の案が大きく変わることなく、法律に盛り込まれましたが、官僚の示した政策案が内容的にも妥当でないケースもあり得ますし、多くの関係者の理解が得られない可能性もあります。

そのような案では、法案の提出前の与党の了承が得られないかもしれません。与党の了承が得られたとしても、国会審議で問題点が指摘され採決できないという可能性もあります(世の中の批判が多ければ与党も強引に採決をするのが難しくなります)。

そのような事態に陥らないように、いろんな人の意見を聞いて、政策をブラッシュアップするための安全装置としての役割を果たしているのが政府会議です。政府会議の場では、委員の意見を踏まえて政策の中身を修正することもあります。

政策をつくる役所からすると、政府会議を開く意味は、大きく2つあります。

ひとつは「知見のインプット」です。有識者(研究者も現場の人も民間企業の人もいます)としての知見をインプットしてもらって、政策の中身をよくすることです。例えば、実際にビジネスをしている人や、現場で活動をしているNPOの人達の方が、現場の困りごとや、政策を前に進めるためにどうすればいいかの具体的な解を持っていることがあります。制度に詳しい官僚の知見と現場の課題意識を合わせることでより良い制度が出来上がります。

もうひとつは、「意見集約機能」です。

会議のテーマとなる政策に関係の深い様々な立場の人と議論しながら一つの結論を導くことで、意見集約の場とすることです。ある政策について、賛成派と反対派に分かれている場合などは特に慎重な意見集約が求められます。

政府会議という場で色々な立場の人が議論をしながら一つの結論に至り、法律案などの政策案(政府としての案)が出来上がると、その後、国会での議論がありますし、メディアなども色々な見解を出します。

そうした中で最終的に政策は決まっていきますが、政府会議でしっかり議論をして一つの結論に至ったものは、こういう次のステップでも、反対が起こりにくいのです。

先ほど事例として挙げた、医療費適正化計画については、都道府県に対し、あらかじめ設定した医療に関する目標を達成できない場合にその要因を解消する努力義務を課すことを新たに規定しました。都道府県からしたら、新しく自分たちに義務が課されることになりますし、地域で医療を提供する医師からすると、必要な医療を提供できないことになりはしないか、と懸念を抱く可能性があります。懸念を抱く人たちを無視して、政策を実現してもいい結果にはなりません。

法律が通った後に、強い反対の声が上がっても、またすぐに改正することは難しいですし、そんな質の悪い法案を通した政府にも批判の声が上がってしまいます。法案が通ってから、主要な関係者から大きな批判の声が上がらないよう、あらかじめ意見を調整しておく場が政府会議の場なのです。

政府会議には大小あれど、何らかの形で政策に直結

少し専門的な政策テーマを例として用いましたが、政府会議には皆さんもよく知っているものがあります。例えば経済財政諮問会議です。

日本政府の政策の基本的な方針を取りまとめた骨太の方針の内容を議論する場であり、経済界の重鎮や大学教授やエコノミストが経済財政諮問会議のメンバ―として選ばれ、日本の政策が向かうべき方向性を議論するものです。
このような日本の大方針を決定する会議にも、民間の有識者が委員又は構成員などとして選ばれ、政策に影響を与えています。

政府会議はこのように官邸の旗振りで立ち上がる幅広いテーマを議論するものだけではありません。各省庁の局や課室の単位で立ち上がる政府会議もあります。

こちらは、ある法案の中身など具体的な制度設計を議論するものです。先ほどの医療費適正化計画を議論した医療保険部会などはまさにそういう位置づけであり、医療保険を所管する厚生労働省保険局の政策を議論する場となっています。他の部局の政策を議論する場は、また別の部会があります。

会議の格や位置づけはいろいろなものがありますが、それらの政府会議に共通するのは、何らかの政策検討のための会議であるということです。

政府会議では、ほとんどの場合、全会一致での合意が求められます。みんなの意見を集約するために会議をしたのに、反対している委員がいるようでは、その機能を果たせないからです。ですので、政府会議の意見は一定程度政策に反映されることになります。

千正組は、かつて官僚として政府会議を運営した経験もありますし、現在も代表の千正は政府会議の委員として活動しています。また、政府会議の委員として活動している方をバックアップして、政策が前に進むよう、地ならしをするお手伝いも日常的にしていますから、政府会議の知見がたまっています。

ここでは、どのような政府委員が選ばれるのか、また委員として選ばれた場合どのようにふるまうべきかをお伝えします。政策をより効果的・効率的に実現するための技術を一緒に学んでいきましょう。

(この続きはこちらのnoteから)

(執筆:西川貴清、監修:千正康裕)

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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2023年8月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。