まともじゃない人にまともな対応はしなくていい

黒坂 岳央

黒坂岳央です。

世の中には、到底まともとは思えない主張をする人がいる。

最近でいうと「救急車のサイレンがうるさいから音を出すな」が話題になっている。また、重要性が極めて小さい119番の急増により、東京消防庁は「不要不急の問い合わせ内容なら電話を途中で切ります」と呼びかけている。社会の迷惑になるノイジーマイノリティたちである。

ビジネスの世界ではこうした風景は日常茶飯事である。筆者が実際に経験した個人の人だと「お金がないからタダで商品サービスをくれ」とか、法人では「この仕事をしてほしい。実績になるんだから報酬は無料でやって」みたいなオファーである。人口1億2000万人いれば、まともじゃない人がマイノリティでも絶対数はそこそこの数になる。さらにネットだと物理的距離が障壁にならないという事情も遭遇確率を高める要素になり得る。

結論、まともじゃない人にまともに対応をする必要はない。その理由根拠を述べたい。

Zorica Nastasic/iStock

クレーマーにはお客様対応はしない

筆者は昔、コールセンターで長い間働いていた。携帯電話やPCのテクニカルサポート、クレジットカードの債権回収、テーマパークの年間パス、通販の受注などトータルでは数万コールの通話を経験してきた。

それだけの数の通話をするといろんな人に出くわす。女性オペレーターと通話したくて女性が出るまで何度もかけ直してくる人(最後は男性オペレーター専属顧客に指定された)。寂しさから毎日何時間もどうでもいい話をしてくる人。難癖つけて最初から金銭的なお詫びの保証目当てでクレームをいってくる人たちだ。

最初は自分たちのような一般オペレーターが対応するが、それでも無理ならスーパーバイザーと呼ばれる上司に代わり、それでも無理ならクライアントの社員、最後はセンター長にエスカレーションすることが多かった。センター長が出ることはめったになかったが、それだけに彼が電話口に出るとオペレーター間に緊張が走っていた。「よほどヤバい通話なんだろう」と伝わってくる。

そしてセンター長は声を荒げる事もあり、「これだけ当社に経済的な損害が出ている以上、もはやあなたをお客様として対応することはできかねます。これ以上の通話は不要と判断し、お電話を切らせていただきます」といってガチャ切りすることが何度かあった。どうやら携帯電話を不正契約行為で稼いで問題を起こした人らしく、その後は強制退会となってブラック登録された。

コールセンターはお客さま商売だ。タメ口、乱暴な怒りをぶつけられたくらいでこちらが応酬することはできない。相手が悪くても「こちらの対応でお客様のご気分を害されることとなり、申し訳ございません」と答えなければいけないトークスクリプトになっている。だが、一線を越えたクレーマー相手にはもはやお客様扱いをしなくていいこともあるのだ。

相互リスペクトのなき関係を作らない

人間関係において最も重要な要素の1つが「リスペクト」である。

まともじゃない人がまともでない理由の一つに相手にリスペクトを示さないのに、自分はそれを強く求める矛盾にある。自分が手助けしてもらう立場なのに、感謝するどころかあれこれと文句をつけたり、とにかく相手から搾取することしか考えていない事が多い。他人は自分の遺伝子を持つ我が子ではないのだから、リスペクトをしない相手にまともな対応をする必要なんてないのだ。たとえばDMやコメントにおいて、上から目線で説教やダメ出しをしたり、尊大な要求をしてくる相手はまともではないからまともに対応してはいけない。

リアルではおとなしいはずの人もネット上では簡単に狂う。オンラインで誹謗中傷を続ける人が訴訟されて見える化した結果、リアルでは静かでおとなしい人で驚かされる、という話はよく聞く。この現象について元プロボクサーのマイク・タイソンは2020年にFacebookに次のような投稿で表現をした。

Social media made folks way too comfortable with disrespecting people and not getting punched in the face for it.
(SNSのせいでお前たちは他人を馬鹿にしても顔面を殴られない環境に慣れすぎている)

冷静に考えればすぐわかるが、リアルでのコミュニケーションにおいて、初対面で挨拶や名のりもなく説教や金銭的価値要求をしてくる相手を「まともな人間」と考える人はいない。本人は自分がどれだけ狂っているかを自己認識できるだけの客観性を失っている。

そして悪いことにまともじゃない人にまともな対応をすると、こちらまで狂気が伝染してしまう。だから彼らのベストな対応方法は「無視」である。イライラして一度でも反応したらその時点で負けなのだ。

これは言うまでも無いが、まともな人にはまともな対応をするべきである。そればできないなら「まともじゃない人」とカテゴライズされてしまうし、そうあるべきだろう。しかし、まともじゃない人にまで丁寧に礼儀正しくコミュニケーションを取る必要はない。それが続くと、いつしか精神的侵食を受けてこちらまでまともじゃなくなってしまう。ネットはいろんな人がゼロ距離で繋がれる世界である。自分のメンタルを守るためにも、まともな対応は、常識的な思考や対応ができる相手に限定した方がいいだろう。

 

■最新刊絶賛発売中!

■Twitterアカウントはこちら→@takeokurosaka

YouTube動画で英語学習ノウハウを配信中!

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。