ドイツのロベルト・ハベック副首相(経済相兼任)は、パレスチナ自治区ガザのイスラム過激派テロ組織「ハマス」が今月7日、イスラエル領内に侵入し、1300人余りのイスラエル人を殺害し、200人以上を人質として拉致した直後、「ドイツは無条件にイスラエルを支援する。これはドイツの義務だ」と表明するメッセージを公表した。
そのドイツでその後、パレスチナ人を支援するデモ集会が開催され、ガザ地区に軍侵攻を図るイスラエルを批判する声が高まる一方、国内のユダヤ教関連施設が襲撃されるといった出来事が絶えない。ナンシー・フェーザー内相は記者会見で、「反ユダヤ主義的犯行が増加してきている。わが国はそのような犯行を絶対に容認しない」と強調している。なお、独週刊誌シュピーゲル(10月14日号)はドイツで最も反ユダヤ主義傾向が強い首都ベルリン市南東部のノイケルン区のルポ記事を掲載し、アラブ系住民の声を拾っている。
ドイツのユダヤ人中央評議会のヨーゼフ・シュスター会長はフランクフルター・アルゲマイネ日曜版(10月21日付)とのインタビューで、「ドイツに住むユダヤ人は脅威を感じている」と説明、反ユダヤ主義がドイツで高まっていると警告を発している。
シュスター会長は、「ドイツでパレスチナ人のデモへの参加者が大幅に増えている。(欧州に難民が殺到した)2015年以後、ドイツに入国し、当初は目立たずに行動していた人々の一部が、今では街頭に繰り出して暴力的に振舞ってきている」という印象を述べている。
同会長によると、「右翼過激派の反ユダヤ主義がドイツで最も危険だが、イスラム教徒移民の間での反ユダヤ主義的態度が大きな問題だ。ドイツに来るアラブ系の人たちは、家庭で毎日反イスラエルの歪んだイメージを教えられていることを知っておく必要がある」という。
シュスター会長は、「デモで反ユダヤ主義のスローガンを唱えることに対する厳罰が必要だ。ドイツの都市では親パレスチナデモを禁止しているところもある。デモは単に親パレスチナ的なものではなく、反イスラエル、反ユダヤ主義的だ」という。ただし、宗教的な理由からイスラエルに移住するユダヤ人はいるが、反ユダヤ主義の高まりゆえに、ドイツから出国するユダヤ人はほとんどいないという。その点、フランスに住むユダヤ人の事情とは異なる。
ベルリンで18日、2人の犯人が火炎瓶を使ってベルリンのシナゴーグを襲撃した。被害はなかったが、ベルリンで進行中の反ユダヤ主義暴動との関連性は明らかだと受け取られている。
中央評議会の説明によると、シナゴーク放火未遂事件の前夜、若者を中心とした数百人が反イスラエル集会のためにブランデンブルク門に集まった。彼らはガザ地区の病院へのロケット弾攻撃はイスラエル軍によるものだとするハマスの報告を受けて激怒していたという。
また、ベルリンのラビ、イェフダ・タイヒタル師はベルリン・モルゲンポスト(10月18日付)とのインタビューの中で、「ユダヤ人の命が確実に守られるように、あらゆる手段を講じてほしい。ユダヤ人が公の場でヤムルカ(浅くて丸い帽子)やダビデの星を着用できなくなる状況は悲劇だ」と述べている。
イスラエル軍はハマスのテロ奇襲に報復するためにガザ地区を包囲し、いつでも攻撃できる体制に入っている。ガザ地区での戦いが始まれば、パレスチナ人にも多くの犠牲者が出るだろう。そうなれば、パレスチナ人だけではなく、アラブ・イスラム国でイスラエルを批判する声が更に高まることは必至だ。同時に、欧米社会でも親パレスチナデモが拡大し、過激派による反ユダヤ主義的言動が広がるだろう。参考までに、隣国オーストリアではハマスのテロ奇襲後、これまでに78件の反ユダヤ主義的言動が登録されている。
イスラエルの著名な歴史学者ハラリ氏はドイツのツァイト(オンライン版)とのインタビューの中で、「イスラエル国民はハマスのテロに衝撃を受け、国民は混乱と痛みを抱えている。一方、パレスチナ人側もイスラエル軍の攻撃を受け、多くの犠牲者が出、その痛みは大きい。双方が大きな痛みを感じている時、一方が他方の痛みを理解することは難しいのだ」と説明している。
レバノンのシーア派過激テロ組織「ヒズボラ」がイランの要請を受けてイスラエルを攻撃する動きも見られる。ヒズボラが出てくれば、イスラエルは南部と北部の両面で戦争状況に対峙することになる。イスラエルとパレスチナ双方の痛みが癒える間もなく、戦いが中東全土に拡大するという事態が考えられる。
ベルリンのブランデンブルク門で22日、宗教代表者や政治家らがイスラエルのための連帯集会に参加した。モットーは「イスラエルへの連帯と思いやりをもって、テロ、憎悪、反ユダヤ主義に立ち向かおう」で、主催者によると2万5000人が参加した。ドイツでは同日、親パレスチナ人のデモも行われている。デモは許可なく開かれたが、平和的に行われた。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年10月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。