チョコザップはマーケティングの勝ち組

チョコザップ、正式には英語でChocoZAPなのですが、ご存じない方もいらっしゃるかもしれません。ひと頃30万円であなたのボディを作り直すで大流行した瀬戸健氏のライザップ社が久々のヒットを飛ばしています。名の通り、「ちょこっと運動する」というコンセプトで月2980円払って街中にある施設で運動するのですが、メンバーさんはそのままの恰好で自転車をこいだり、ランニングマシーンを使います。その使用時間、5分とか10分。汗をかくかかかないかのうちに出て行ってしまいます。結果にコミットしないようにも見える180度転換のビジネスが流行るのはなぜでしょうか?

ちょこざっぷ HPより

いわゆるお手軽フィットネスの火付けはカーブスでした。街中で目立たないのに、よく探せばあるのがカーブス。店舗数は1947店もあります。ここはもともとアメリカでちょこっとだけフィットネスをするというコンセプトだったのですが、日本で中高年の女性の方にしっかりと根付いたサービスとなりました。本家アメリカはイマイチとなってしまいました。初期のセブンイレブンみたいなものでしょうか?

そういう意味ではチョコザップのアイディアは斬新でも何でもないのですが、カーブスの顧客層は50代から上が73%と比較的高齢層に対して若者を取り込むマーケティングが見事に成功、会員は50万人を超え、カーブスの75万人を猛追しています。ついでに同社の株価もこの秋の悩ましい株式市場の中でこの1か月で株価は8-9割ぐらい上昇しています。

マーケティングとはインパクトであり、常識を覆すことです。カーブスの最大のマーケティングは施設にシャワーがないことです。フィットネスとは 着替えとシューズ持参⇒着替え⇒運動⇒汗⇒シャワー⇒着替えというサイクルが当たり前でした。このサイクルの中でシャワーを取ったというのが画期的だったのです。

中高年の女性が汗をかかないとは言いませんが、汗をかく運動というより体を伸ばし、グループエクササイズをして人とのコミュニケーションをとることでココロとカラダのバランスのとれた健康ライフを築く、であったと思います。チョコザップは更にこれを若者バージョンにするためにスーツのまま軽いジョギングをする、ノートパソコンやスマホいじりながら自転車をこぐ、というマーケティングをしたのです。

月2980円という価格も絶妙だと思います。高くも安くもない、そして「俺、一応、会員だし…」なのです。すき間時間を埋めるという現代の忙しい人向けにはドンピシャ、直球ど真ん中だと思います。

ところで私は先週、今週と15年ぶりぐらいにカナダのフィットネスクラブに行く機会がありました。大手チェーンの通常施設です。普段は週2-3回、自宅のマンションの中にあるエクササイズルームを利用しているので、その施設に最新型のマシーンがあればと思ったのですが、残念ながら旧式で目ぼしい機器はありませんでした。運動をやりながらいろいろな人を眺めていたのですが、フィットネスクラブはモチベーションを高めるのが一つのキーワードだと思います。つまり一種のナルシスト的なところがあるように思えます。ウェアにこだわるだけではなく、バランスよい健康な筋肉美をみせることでしょう。

もう1つはほとんどの利用客がシャワーを使わずに帰ること。上にさっと羽織ってクルマでさっと帰っていきます。つまり、靴や着替えを持ってくるのではなく、靴も着替えも家から着てくる、そしてそのまま帰る、なのです。とするとフィットネスのサイクルである、着替えとシューズ持参⇒着替え⇒運動⇒汗⇒シャワー⇒着替え のサイクルが無くなり、「運動」だけになるのです。

常識を覆す取り組みは大事です。日本ではニッチ(すき間)マーケットが無くなっていると言われています。個人的には製造業の範疇はそれに近い状態にあると思います。サービス業もなかなか深掘りしたものが増えていますが、切り口を変えるという発想でマーケットを生み出すことは重要でしょう。

ところで5分間、自転車こいで意味があるのか、と思われる方もいるでしょう。運動量やカロリー消費という意味からはほぼ無意味です。脂肪が燃焼するのは運動開始後10分から15分後経ってからです。つまり痩せるわけでもないのです。では何の意味があるか、といえば敢えてこじつけるなら普段運動しない人のための低い誘導路であるとか、日々の忙しい中での気分転換という感じでしょう。

オーナーの瀬戸さんはマーケティングによる開発は上手なのですが、事業の持続性に乏しいところが弱点です。チョコザップもせいぜいあと2年ぐらいでブームは去ると思いますが、50万人の会員の1割でも次のステップアップにつながればよいわけでマーケティングとして「飽きられる」ことを前提に1割のコアな会員をどう持続させ、次のつなげるかと、9割の離脱した客に次にどのようなオファーができるか、だろうと思います。世の中、それぐらいテンポが速いともいえそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年10月24日の記事より転載させていただきました。