アステラス製薬の社員で長く中国駐在を務めた社員が帰国間際に中国当局に拘束されていました。長く「居住監視」状態だったものが先日、逮捕に切り替えられ、「刑事拘束」となり、今後、裁判等を経るプロセスになってしまいました。また、最近になって中国にあるレアメタルを扱う日系の商社の中国人社員が今年3月に拘束されていたことが発覚しました。これは取引関係にあった別の会社の社員が同時期に拘束されていることから何らかの情報漏洩があった可能性が高く、アステラス社員のケースとは若干違う可能性はあります。
ただ、外国企業への厳しい取り締まりは日本企業だけではありません。アップル製品を製造する台湾のフォックスコンに対して税務調査や土地取引などの詳細な調査を実施していると報じられ、フォックスコン社は中国政府の方針に従うと声明を出しています。またブルームバーグは英国の広告代理店WWPの幹部と元社員が逮捕されたと報じています。
企業関係者の拘束がニュースにはなりやすいのですが、日本人で中国当局に拘束された人はかなり多く、解放され、国外追放(=日本への帰国)となりその酷い処遇が報じられることもあります。拘束の状態は24時間監視状態で個人の自由が完全にはく奪された状態となり、見聞きする限り過酷の極みに見えます。
中国は日本いじめをしているのでしょうか?原発処理水の問題を巡り、日本の水産物の輸入を理不尽に禁じてしまっていることから政治的に日本に強烈な圧力をかけて揺さぶりをしているのは確実です。なぜ日本が憎いのか、といえば「中国に従順ではない」という一点に凝縮されると思います。つまり、現代版冊封関係に近い「服従」を望んでいるわけです。日本は対中国の歴史に於いてほぼそのような関係にはなっておらず、今更そうなることもあり得ません。
日中間の外交を敢えて言うなら国際法と国際的常識観に基づく双方の関係の維持(できれば強化)したいというテーゼに対し政治的野心が時の国家元首により味付けされ、ぶれやすくなるということかと思います。政治体制が違うことで相互理解は一定以上には進まない、これが私の見る日中関係です。
その中で習近平氏は自国の対外影響力の強化と中華思想への固執であり、私から見れば古い思想に固持しているため、日本との温度差が余計に癪に障るのだろうとみています。
では台湾問題はどうでしょうか?1月13日に実施される台湾総統選挙ですが、現状、与党の頼清徳副総督が野党候補を2桁ポイントで差をつけています。中国がもう少し選挙介入をするのかと思っていましたが工作はこれからなのでしょうか?今のところ野党候補が分裂状態になっていることから野党の国民党と民衆党の候補の一本化の話は出ています。国民党と民衆党の支持率を合わせると43%になるため、与党に肉薄ないし、逆転できる可能性があります。
仮に野党候補が総統になれば中国は扱いやすく、台湾海峡の緊張感は和らぐかもしれません。ただ、私が懸念するのはその勢いに乗って沖縄への触手を伸ばす、あるいはジャブを入れる可能性は現実味を増すとみています。そもそも沖縄では政治的足元が非常にぐらついています。玉城知事は問責決議案で賛成23対反対24の1票差で否定されたばかりです。つまり、まだ先の長い知事の任期の間、揺れに揺れる県政が予想され、中国が入り込む余地も大きいとも言えます。
お題の「中国の恐怖政治に対抗策は無いのか?」ですが、分かれば誰でもやっているわけで難しい問題であることは確かです。他力本願的に中国指導部が内部崩壊すればよいわけですが、個人的にはそんな気配は微塵も感じ取れません。経済を揶揄する声はありますが、そんなことを言ったらなぜ北朝鮮は今でも存続しているのか、という説明がつかなくなります。
文化大革命がなぜ終焉したか、については大論文が書けるほどの重要なテーマですが、私が理解する限りでは内部の権力闘争と行き過ぎた毛沢東崇拝主義であり、たまたま毛氏が病死したことも絡み、リーダーシップを取れなくなったというのがたった一言で述べる理由です。
そうであるならば今の習近平体制がどれも当てはまらないのです。内部の権力闘争は今のところ、力で潰し、習近平氏を崇拝するというより国民は醒めています。習氏の健康状態に何かあるという噂もありません。とすれば内部崩壊は考えずらいのです。
では外部からの圧力はどうか、といえば結局トランプ政権のようなケンカ腰で圧力をかけられる国がほぼない点において外圧による中国の恐怖政治の終焉は今後もあまり期待できないとみています。
日本としては中国の市場が魅力なので捨てられないのですが、企業の社員にもリスクが及ぶようになればコーポレートガバナンスからしても付き合い方は考えざるを得ないと思います。むしろ、経済的に中国製品を駆逐できる力を備え、中国寄りの国家を日本側につける外交と日本の影響力の強化を図りながら「目には目を」的な姿勢も必要でしょう。
中国にとって日本が必要で向こうから擦り寄ってくるぐらいになるまで距離を置くのもありだと思います。韓国がそうだったわけですが、中国相手ではそう簡単ではありませんが、それぐらいの気構えが必要だろうと最近とみに感じています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年10月25日の記事より転載させていただきました。