会長・政治評論家 屋山 太郎
ロシア経済が揺らいでいる。中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に付き合ってから財政は急角度で傾いたようだ。ロシア国内では中国に対するロシアの属国化が進んでいるとの観測が出ている。
ロシアは2014年、クリミア半島の併合を一方的に宣言してから欧米諸国の制裁下に置かれた。プーチン大統領は17年に中国を訪問し、一帯一路の実現に向けて手を貸すと大見得を切った。だが中国に対するロシアの立場は弱まっている。
米研究機関は21年、ロシアが17年時点で1,250億ドル(約18兆7,000億円)の対中債務を抱えているとの分析を発表した。それによると、中国はロシアが西側向けのエネルギー収入を増やそうとするのに対して、中国は買い叩いている。天然ガス価格は欧州やトルコ向けに比べて5分の3程度だという。
マクロン仏大統領は、この様を見て「ロシアは侵略で孤立し、中国の属国になった」と述べた。さらにロシアの著名国立大の高等国学院も6日、「ロシアは対中依存度で北朝鮮に次ぐ世界2位になったデータがある」という。
中国外務省は10月18日、一帯一路をテーマにした国際協力サミットが同日閉幕したことを受けて、議長声明を出した。一帯一路をめぐっては、中国の過剰な融資で途上国が苦しむ「債務の罠」が問題視されたが、その悪評が行き詰まったのか、事業は中国が力む割には国際的にしぼみ気味。前回19年の会議には40人の首脳らが参加したが、今回は24人。国連のグテレス事務総長は18日の会議で「多くの発展途上国が債務の罠に溺れている」と苦言を呈した。
国際事業に対して国連の事務総長が酷評するのは珍しい。
中国に不動産開発大手の碧桂園がある。やり手の不動産屋と聞いていたが、マレーシアで一帯一路に丸乗りして、店が危ないという。この事業は総事業規模1,000億ドル(約15兆円)の複合不動産開発で70万人都市を目指したが、居住者はまだ約9,000人。ゴーストタウンと言われる状況に加えて、碧桂園の経営は悪化を続けている。目的は五島から成る「フォレスト・シティー」の建設だ。しゃれたビル群に美しい海。富裕層が別荘や蓄財として所有することを狙った。しかし、時価は募集時点の価格に留まり、上がるどころか下り気味だという。
どうやら他の一帯一路と同様に、価格は下り坂で、不動産業者の不況と道ずれになりそうだという。伸び悩みを決定的にしたのは、中国政府が海外不動産の購入に制限を設けたり、新型コロナウイルス禍で渡航者が激減したことが挙げられる。自由市場なら事業の流れを堰き止めるような政策は打たないものだが、中国事業は勝手に政策を打ち出し、流れを壊す例が多いようだ。
一帯一路事業は、国内の公共投資が行き詰まった結果、事業を海外に広げようとの意図で全世界に広げた。日本でも民主党政権の時、「何が何でもコンクリート事業はお終い」と無理筋の注文が出た。民主・自民が真っ向からぶつかったのだが、結果的には、コンクリートを止めて正解だった。のちに、ダムは出来たのだが、大掛かりなコンクリート行政は終わった。中国政府では、こういう大転換ができないのが致命傷だ。身の程を外れた大きな物は作らないのが無難だ。
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屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年10月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。