景気の行方、株価の行方

私は金融に関してアドバイスするライセンスを持っているわけではないし、それを生業にしているわけでもありません。株価の話は良くしますが、それはあくまでも私の50年に及ぶ市場との対話を通じた市場観で成り立っています。よってそれをどう思うかは皆さんのご判断ということを前書きにしておきます。

東京証券取引所 Wikipediaより

さて、アメリカの7-9月期のGDPが4.9%に急伸したと報じられています。悪くなるだろう、貯金は尽きただろう、と言われながらも9月までは少なくとも消費は上向いていたと統計は表しています。季節要因は配慮すべきでしょう。7-9月は人々が一番外に出やすく、無理をしてでも、つま先立ちしてでも、借金してでもとにかく楽しいことに消費が向かうのです。しかし、秋の訪れとともに財布がすっからかんだったということを改めて認識しているのが今日この頃ではないか、とみています。

つまり、総合的な視点で見れば各種データが示す通り、10-12月期の景気は曇天から雨が降りやすいとみるのがナチュラルだとみています。

アメリカ人の消費性向が非常に高いのは私がアメリカに初めて来た1981年でも、それ以前も含め、ほぼ変わっていません。お金がなければ借りればいい、という発想も変わっていません。驚いたのは住宅価格が上昇していた2000年代前半から半ば、金融機関は顧客の住宅価値の再評価をして市場価格の値上がり分を追加ローンとして提供したことでしょうか?

このローンは用途制限がなく、住宅ローン所有者にとっては「干天の慈雨」というより「棚からぼた餅」で、これで自動車から家具、インテリア商品が爆売れしました。その後どうなったか、といえばリーマンショックが起きたわけです。

では現在、アメリカ人の懐はどうなっているのか、といえばアメリカ人の家計の負債は16.9トリオン㌦(2500兆円、22年末時点)で、内訳は住宅ローンが12トリオン㌦、自動車ローン1.5トリオン㌦、学生ローン1.6トリオン㌦、クレジットカード1トリオン㌦などとなっています。クレカのローンはコロナ前のピークだった927ミリオン㌦を22年末時点で凌駕し、23年6月末には1.03トリオン㌦となり、今は更に増えているはずです。一人当たりでみると働き盛りの30-40代で住宅ローン以外に概ね27千㌦、つまり400万円程度の負債を抱えていることになります。夫婦で住宅以外に800万円です。この金利高で正直、どうやりくりするのか、あるいは破産してチャラにしてもらうのか、日本人の感覚からは遠いと思います。

消費が強いという勘違いの中、企業破綻が起き、それが連鎖反応を起こす、というのが奈落の底に向かう第一歩であります。今回、アメリカがその道を再び辿るのか、それはまだわかりませんが、企業業績は相当悪化すると悲観論に立っています。特に自動車関連が長期のスト、そして妥結したフォードや交渉中のGMの内容を見ると「これで経営できるのか」「世界と戦う価格戦略は?」「強気のEV戦略は大幅後退したのか?」と思わせる内容です。

7-9月期の決算発表の真っただ中ですが、現状、浮足立つ決算は全く上がってきていません。よかったとされるマイクロソフトの株価も翌日にはほぼ振出しに戻し、メタは好決算にもかかわらず、大きく売れました。先ほど発表のアマゾンはグーグルと同様、クラウド部門が未達となりました。大手IT決算がもやもやを払しょくできていないため、投資家の腰は引けている状態が続いています。

この理由がアメリカの金融政策の不安感と片づけるにはちょっと無理がある、そんな気がするのです。私は10月には「魔物が住む」と申しあげ、先週の「つぶやき」では「来週が試金石」と述べました。その試金石である今週はアメリカ市場は引き続き、ぬかるみにはまったような株価形成、日本は乱高下しながらも着実に下落トレンドに入っています。チャートからはナスダックが下値抵抗線を切っており、ダウとS&Pがこれに続くものと思われます。日経平均は30500円あたりが下値抵抗線ですが、これを下回割る可能性はあり、3万円割れも十分あり得るとみています。

「景気が悪けりゃ戦争しよう」というあまり芳しくない話があります。まさかとは思いますが、イスラエルとそれを擁護するアメリカの話はタイミング的にあまりにもうまく出来すぎています。また、アメリカのGDPや消費動向は「悪くなりつつあるのに止められない消費癖」のように見えます。その点と私の過去の経験を照らし合わせてみると「何が飛び出してもおかしくない」状態に見えます。

今週はEUとカナダが利上げ停止をしました。カナダについては金利はピーク打ちと見られています。来週、日銀とアメリカが金融政策を発表します。日銀はYCCの変更が焦点、アメリカはパウエル氏の口先介入が継続するのか、あるいはそのトーンが変わるのかが着目点です。個人的にはそれでも金融政策の日程は通過点でしかなく、世界の投資家は何か別のものに怯えている、そんな感じが見えます。それが何なのか、まだ見えません。故に魔物なのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年10月27日の記事より転載させていただきました。