黒坂岳央です。
世の中には「暇」についての意見が真っ二つにわかれる。
「大人を暇にするとろくなことを考えない」
「老後に社会から切り離され暇を持て余すのは地獄」
という否定派の意見もあれば
「忙しいとは心を亡くすと書く。余裕がクリエイティブを作る」
といった賛成派の意見もある。
筆者はヒマな人間である。といっても毎日、何もすることなくずっとテレビの番人をしているわけではない。「やりたいこと」はたくさんあるので、一日を家事育児や仕事の予定を入れて時計をチラ見しながら毎日を過ごしている。傍目から見ると忙しそうに見えるだろうし、自分でも意識的に忙しくしている。より厳密にいえばこれは「やりたいことはたくさんあるものの、やるべき義務的タスクは少ない状態」に近い。
今でこそヒマを楽しさに換える人格と技術を得たが、昔はヒマ過ぎて苦しんだ時期もあった。世間で賛否両論わかれるヒマ論について暇人である筆者の視点で取り上げたい。
ヒマになるメリット
まず、ヒマになる主なメリットは精神的余裕とクリエイティブになる点である。
毎日22時退社が普通で、時には会社の会議室の椅子を集めて眠っていた会社員の頃はとにかく忙しくて精神的な余裕はなかった。隙間時間を見つけて仮眠を取っている時につまらない要件で電話が入って起こされるとイライラしてしまう狭量さがあった。
今は夜中、子供に起こされたり、昼寝の途中でけたたましい防災無線のテストサイレンに起こされても腹は立たない。その気になればいつでも仮眠できるからだ。暇になると気持ちの余裕が生まれ、人にやさしくなれる事実がある。
そして仕事にクリエイティブになる。動画や記事を書く時にもちょっとした遊び心を入れたり、面白さを追求したくなるのは余裕があるおかげである。もしも時間パツパツで「後1時間以内に何が何でも成果物として出さないといけない」という状況だと、最低限の品質になり遊び心も入らないし質を高めようとも考えづらくなる。
さらに長期目線で人生を考え直すきっかけが生まれる。自分が会社員をやめて起業しようかなと考えたのは、当時勤務していた会社に時間や精神的ゆとりがあったからだ。繁忙期以外は残業はなし、同僚と楽しく雑談やおしゃべりをして気持ちに余裕が生まれたからこそ「もっと自分を高める方法はないか?」と他のことに目を向ける気になったというのは大きい。
ヒマになるデメリット
翻って暇のデメリットは世間で考えられているよりはるかに大きい。
シンプルに何もすることがない時間は苦痛を生み出す。これは会社員でとても暇な会社で働いた経験者ならわかると思うが、出社してもやることがない会社は地獄そのもので忙しい会社より遥かに辛い。
朝9時に出社して5分で仕事は終わってしまい、夕方18時までなにもない。周囲に声をかけて仕事をもらおうとしても、みんなヒマなので自分の仕事を渡すことはしない。ムダにエクセルを開いて閉じるを繰り返す日々。自分はまさしくこの経験があり「同じ暇でも家にいれば辛くはないはず」と思っていた。だが、家にいても毎日暇を持て余すと結局は同じことでやることがない苦しみが降臨する。やりたいことが何もない人生は地獄である。
人類の歴史はすなわち、暇の克服といっていい。古代ギリシャでは労働は奴隷が行う苦役とされていた。しかし、その後テクノロジーの進歩や価値観の多様性が認められることで、仕事の中にも技術の向上や創意工夫、クリエイティビティを楽しめる要素が入るようになり、「やりたいこと=仕事」という認識を持つ人が生まれた。現代社会では好きなことを突き詰めると仕事になるケースも珍しくなくなり、ゲーム好きが興じてゲーム配信者やプロゲーマーとして生活費を稼ぐ人も現れている。
今はまだまだ「労働=苦役」という認識が一般的だが、AIやロボットが多くの労働を代替することになれば認識は大きく変わるだろうと予想している。食べるには何も困らないが、暇を克服するために仕事をやりたくても知識や技術不足でさせてもらえない「働きたくても働けない人」が生まれると考えている。ちなみに刑務所の服役囚は何もやることがない土日より、単純作業でも少しずつ熟練が感じられる刑務作業ができる平日が待ち遠しいというのは数々の手記からも暇の辛さを確認できる。
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人間は本当に暇になってしまえば耐えることはできないのだ。だが、まったく暇がないのもそれは辛い。暇とはバネのようなもので固くなればしなやかさを失うし、弾力がありすぎてもおかしくなる。ちょうどよい塩梅は人それぞれ、そして人生のステージでも変わってくるのでハンドリングは難しい。暇を制するものこそ、真の人生の勝者と言えるかもしれない。なぜならたとえ大きな資産持ちでも暇を攻略できず、苦しんでいる人はいるのだから。
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