強直性脊椎炎に対する抗HLA抗体療法:他の自己免疫難病にも応用可能か?

Nature Medicine誌のオンラインで「Targeted depletion of TRBV9+ T cells as immunotherapy in a patient with ankylosing spondylitis」という論文が掲載されている。免疫療法が強直性脊椎炎に効果的である可能性を示唆したものだ。強直性脊椎炎は背骨を中心に脊椎の関節に自己免疫性の炎症が起こる難病である。時として踵にあるアキレス腱近辺にも病変が及ぶこともある。

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この難病に対して、T細胞受容体ベータの特定のエキソン部分(V9)に対する抗体を利用して、特定のリンパ球を排除する免疫治療が有効であったという内容だ。強直性脊椎炎の発症には白血球型HLA-B*27:05が強い関連を持つことが数十年前から知られていた。したがって、このHLAに結合する抗原がこの病気の起因となると推測されていた。

HLAにはクラスIとクラスIIがあり、クラスIにはHLA-A、HLA-B、HLA-Cが代表的であり、HLAは非常に多様性に富んでいる。そのHLA-Bのうち27:05型に結合する何か(HLA-抗原複合体)を標的として自分のリンパ球が特定の細胞を攻撃して炎症を起こすのだ。本来、自分のリンパ球は、自己を攻撃しないが、細菌感染やその他?をきっかけに活性化されたリンパ球が自分(HLA-B27:05にくっついたもの)に対して誤爆しているのだ。

この誤爆の役割を果たすのがT細胞受容体を持つCD8リンパ球だ。Tリンパ球の大半はT細胞受容体のアルファとベータが結合したもので、論文の表題にあるTRBV9のBはベータを意味する。

T細胞受容体遺伝子は、図にあるように、数十個のVエキソン、二つのDエキソン、十数個のJエキソンがあり、VDJが一つずつ結合して(再構成して)、抗原を認識できる機能を持つ。VとD、DとJが結合する部分が抗原を認識するために重要だが、このつなぎ目で塩基が欠失したり、挿入されたりすることによって非常に多様性を高くしているのだ。

このTRBV9がこのHLA-B*27:05に結合した抗原との複合体を認識する(見つけて結合する)ために重要で、症状がひどい時に患者さんの末梢血や炎症部分に、このTRBV9を持つリンパ球が増えている。

そこで著者たちは、このTRBV9を持つリンパ球に対する抗体を利用して、血液中からこの種のリンパ球を排除することを試みたのだ。他の治療法が効かなくなった患者さんでも、劇的な効果があったというのがこの論文の主旨だ。これらのリンパ球は、リンパ球全体の約5%であるようで、それがなくなっても免疫機能を大きく損ねることはないと記載されていた。

特定のHLA型が特定の自己免疫疾患に関連することが報告されている。重篤な薬疹では、HLAのクラスIタイプと薬剤のコンビネーションが大きな鍵を握っている。この論文と同じような方法を応用することによって、TRB抗体療法で治療することも可能だ。もちろん、他の自己免疫性難病にも応用できる。新しい未来が見えてきた。

そして、最後に強調したいのは、この論文はロシアから投稿されたものだ。医学に国境はない。患者さんを救いたい気持ちは世界共通のものだ。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2023年10月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。