黒坂岳央です。
「平成で最も売れた新書」として有名なのが「バカの壁」という本だ。自分はこのバカの壁が好きで、日本語版だけでなく英語版も読んでしまうくらいハマった。そしてただ面白かったというだけでなく、その後の人生観にも大きな影響を与えた一冊となった。
この本について一言でいうと「話せば分かるは間違い。人は誰ともわかり合えないというところからコミュニケーションを考えるべき」という本質である。これはネガティブな考え方ではなく、むしろ「話せば何でも聞いてくれる。わかってくれる」というコミュニケーション技術をサボって相手に寄り掛かる姿勢をやめ、少しでも伝わる努力と話法を意識せよというポジティブな発想である。
平成が終わり、テクノロジーは発達したが人の本質は令和になっても変わらない。今回は話をすれば分かる人、そして分からない人の違いについて独断と偏見で考察したい。
話をすれば分かる人
世の中には話をすれば分かる人が存在する。そうした相手と会話する時はお互いに以下のような不文律がある。
・「結論から話す」など伝える創意工夫や技術を意識する
・相手を理解しようとする姿勢を持っている
・お互いの価値観など解釈がわかれる領域は分かり合おうとしない
これを意識できる相手とのコミュニケーションは大変楽である。なぜなら何が通じて、何が通じないかを明確にした上で、分かり合えない部分は最初から話に出さないので短時間で合理的に会話が成立する。理解できる部分だけで会話するのでとても心地良く「こんなに伝えているのにわかってくれない!」などと相手にイライラすることもない。
仮に相手とお互いに譲れない価値観の壁にぶつかったと感じた時は「この部分は価値観の領域なのでやめておきましょう」とすぐに引っ込める。争いやわだかまりは一切なく、極めて平和的である。
このような関係性も件の「バカの壁」への意識がある。普通に思いついた内容をポンポン出しあっても分かり合えないため、「どうすれば伝わるか?相互理解できる、できない領域は何か?」を常に意識した会話になる。結果、100%ではないものの口に出す部分については意思疎通ができるという具合である。
原則、ビジネスコミュニケーションはこのようなスタンスが最も平和的で合理的ではないだろうか。その逆に「なんでわかってくれないの!」「普通理解できるでしょ!」と個人的な感覚値を広く一般化して声を荒らげた暴力的勢いで相手に詰問するべきではない。
こうしたタイプはしばしば相手に伝えることに必死になり過ぎるあまり、相手を理解しようとする姿勢を忘れている。
話しても分からない人
翻ってこちらは上記の真逆なタイプである。
・話したことはすべて相手に伝えられると思っている
・熱意を持って時間をかけて話せば全部伝わる
・コミュニケーションは技術より熱意
・相手を理解しようとする姿勢が欠けている
・お互いの価値観などは重要なので全て分かり合うべき
主にこうした感覚の持ち主が多いと感じる。
ここで重要なのは「分かり合う」のが難しいのであって「分かる」ことはあり得る。たとえばコミュニケーション能力に長けた側は相手の言わんとしていることは理解できても、そうでない側は論理的な反論やそもそも反論を受け入れないという構図があり得る。だがコミュニケーションとは一方的に成立するものではなく、相互理解を目指すゲームであるため、片方だけ理解できてもダメなのだ。
よくある具体例で言えば、夫婦の関係において夫は仕事にコミットして家事育児をせず、妻が参画を促して喧嘩をするという光景だ。夫は「仕事が忙しくてそれをするだけの時間や体力がない」と主張するし、妻は「こちらもパートとはいえ働いている中で頑張っている。育児は協力するという話ではなかったのか」と主張する。お互いに自分の主張を相手に伝えようと一歩も譲らない。
この場合について言えば0-100の二元論ではなく、お互いに譲歩可能な部分を探るアプローチが良いだろう。夫は妻が考えるような全面協力は難しいが、仕事が忙しくてもできる範囲で頑張ってみるのである。たとえば平日は難しくても土日は夫が子供を公園に連れ出したり料理をするなど、妻の手を完全に空ける配慮をする。このように1つずつタスクの実現可能性を試してみる。結果、持続可能、不可能なタスクが見えてくるので、それを話し合って採否を決めていくイメージだ。
◇
「1を聞いて10を知る」ということわざは人間関係の相互理解の文脈上は間違いと考える。「1を伝えたんだから10理解できるでしょ」というのはコミュニケーション努力を放棄した傲慢な態度といえる。「10を聞いてを1を知る」こそが正しい解釈である。「言葉や表現、技術を尽くしてそれでも伝わるのは1しかない。さらに努力して3や4に引き上げよう」という姿勢が結果として話をすれば分かる人になるのではないだろうか。
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