ロシア軍、出稼ぎ外国労働者を兵士に

ロシア軍がウクライナに侵攻してはや20カ月が過ぎた。ロシア軍はウクライナ軍の軍事施設を攻撃するのではなく、電気や水道など産業インフラを破壊し、病院や学校、宗教関連施設など民間施設を砲撃し、兵士ばかりか多数の民間人が犠牲となっている。

砲兵部隊、ミサイル部隊、工兵部隊の兵士たちを訪問し、挨拶するゼレンスキー大統領(2023年11月3日、ウクライナ大統領府公式サイトから)

ウクライナでは戦争が勃発して以来、まもなく2回目の冬を迎える。エネルギー、電力不足で暖房もままならない状況が再び生じる。ウクライナ国民には暖房用の発電機が必要だ。ロシアの攻撃で多くのエネルギー・インフラ施設が破壊されると、ウクライナ各地で大規模な停電が発生するからだ。ちなみに、日本政府は国際協力機構(JICA)を通じてウクライナに発電機237台を支援したが、継続的支援が不可欠だ。

ウクライナ戦争が長期化する中、中東ではパレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム過激テロ組織「ハマス」とイスラエル間で戦争が勃発し、世界の関心はウクライナ戦争から中東戦争に移ってきたが、ウクライナでは連日、戦争が続き、多くの兵士や民間人が亡くなっている状況に変わりはない。

戦争が長期化すれば、前線の兵士不足が出てくる。ウクライナだけではなく、ロシアでも兵力不足は深刻だ。ドイツ民間ニュース専門局ntvのモスクワ特派員によると、ロシア軍の兵士募集担当はタジキスタン、ウズベキスタン、キルギスタン出身の若い労働者に声をかけ、ロシア旅券を提供し、一時金を支払い、リクルートしているというのだ。

タジキスタンやキルギスタンなどからモスクワに出稼ぎに行く青年たちは多い。彼らはイスラム教徒(主にスンニ派)が多く、信者にとって重要な「金曜礼拝」に参加するためにモスク(イスラム寺院)にくる時、ロシア軍リクルート担当官はそこで、若く健康な青年たちに声をかけ、ロシア軍に参加を呼びかける。そして「軍に入隊すれば、2000ユーロを提供する」というオファーを出す。彼らの給料の約5倍の額だ。貧しい家庭出身の青年たちはその一時金を受け取り、ロシア旅券をもらう。その後、兵士として短期間の訓練を受けると、ウクライナの前線に派遣されるというのだ。彼らの中にはロシア語を十分に話せない者もいるという。

ntvのモスクワ特派員は1人のタジキスタンの青年と匿名インタビューしていたが、その青年によると、「友人がロシア軍の兵士として戦地に派遣されたが、数日後、戦闘で死んだ」という。十分に訓練されずに戦場に派遣され、そこで戦死する若い兵士が数多くいるという。もちろん、ロシアのメディアは外国労働者出身のロシア兵士の話など報じないから、どれだけの兵士たちが動員され、犠牲となっているかは不明だ。

ロシア軍の侵攻を受け、祖国防衛のためにロシア軍と戦っているウクライナ兵士と比較すれば、インスタントの新兵士の戦闘意欲、能力が劣ることはいうまでもないことだ。

ちなみに、ゼレンスキー大統領は3日、砲兵部隊、ミサイル部隊、工兵部隊などの兵士たちを訪問し、挨拶したが、「あなたがた兵士たちと会うたびに、私は(あなた達から)ウクライナを守る準備ができているだけではなく、この戦争に勝利するという決意を感じている」と喜びをもって語っている。

ウクライナ東部と南部で戦争は続いている。同国第2の都市ハリキウが3日、最大規模のロシア無人機攻撃を受けた。ゼレンスキー大統領は、「犠牲者はいない。約40機の無人機のうち半数以上を撃墜した」と述べている。

外電によると、ロシア軍はまた、東部ドネツク州アウディイウカ周辺で激しい攻勢に出ている。一方、南部ザポロジエ州ではウクライナ軍の反転攻勢が続いている、といった具合だ。

オーストリアのインスブルック大学政治学者でロシア問題専門家、マンゴット教授はロシアとウクライナ間の戦争の見通しについて、「ロシア軍は大規模な攻勢は現時点では難しい。一方、ウクライナ軍も夏ごろから開始した反攻もあまり領土を奪い返すことができなかった。これからは冬の季節を迎えるから地面は泥濘化し、地上戦は難しい。本格的な戦闘は来年春以降となるだろう」と予想している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年11月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。