イスラエルの行方:難しいかじ取りを迫られているアメリカ

今回のハマスとの戦いは国際世論との戦いとも言えます。イスラエルにとって非常に難しい判断を求められる、そんな状況になってきました。

ハマスの指導者・イスマーイール・ハニヤ氏(左)とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相 Wikipediaより

現時点でのネタニヤフ首相やブリンケン国務長官、更には世論の声を踏まえると戦争の行方と戦後についていくつかのアプローチがあります。

戦争の行方
① イスラエル軍が引き続き攻め、ハマス全滅を狙う
② ヒスボラなど他の過激派組織を刺激し、イスラエルは両面の戦いを強いられる
③ イランなど国家組織を巻き込む本格戦争になる
④ ガザ地区北部の制圧とハマスの北部要塞破壊に留め、自主的に引き上げる
⑤ 国連や主要国の声を聞き、早期の一時休戦/停戦で今回の武力衝突は一旦終了させる

戦後の行方
a イスラエルがガザ地区北部を長期間占拠あるいは実効支配
b イスラエルがガザ地区北部を可視可能な短い期間一時占拠
c ガザからは引上げ、元の国境線になる

細かく見ればもう少し選択肢はあるのかもしれませんが、大局的にはこの辺りが選択肢ではないかと思います。

ネタニヤフ首相は①とaないしbの組み合わせに対してブリンケン国務長官は言動的には④のbですが気持ちは⑤のbかcに傾いているように見えます。同国務長官はこのひと月の間に関係国や周辺国との調整に全ての精力を注ぎこんでおり、八面六臂とはこのことでしょう。これが業務といってしまえばそれまでですが、大変な調整役となっています。

先日のブログでアメリカの警官の話をしましたがこの調停ができるのはアメリカだけであり、やはりアメリカはリーダーであり続けてもらわねばならないのです。特に今回はアメリカが最大のユダヤ人の国外の居住地であり、アメリカの政界、財界を牛耳る人たちも多く、影響力が大きいこともあります。アラブ諸国もアメリカという国力故に好む好まざるにかかわらず、交渉のテーブルにつくわけです。これが欧州の一国の長の説得の重みでは残念ながら十分ではないのです。

ところでトランプ氏がつい最近、選挙向け演説で「自分が大統領であればウクライナ問題もイスラエル問題も起きなかったであろう」と自信満々に述べています。つまり自らが抑止力になったであろうと。そうかもしれないし、大ボラかもしれません。トランプ氏は警官というまじめで公正なポジションというより品がなく国家のトップとは思えない脅し文句に「従わなかったら後が怖い」ということなのだろうと思います。彼の言動は相手を名指しでぼろくそに叩くところに特徴があり、相手国のトップや重鎮のプライドを簡単に傷つけることを平気で行うからでしょう。

さて、イスラエルですが、個人的にネタニヤフの強気姿勢がどこまで本心なのか、計りかねているのですが、先日も申し上げたようにプーチン大統領とそっくりな状況に陥っているとみています。「引くに引けない」「上げた手を下せない」であります。

仮に戦闘を続け、ガザ地区の一般人の被害が更に拡大するならば西側諸国の支援の声は止まると思います。つまり、ガザにいるハマス戦闘員の炙り出しを続けるのは容易ではないとみています。

私ならどうするか、ですが、ガザ地区北部の要塞を破壊した後、北部と南部の間に境界線と緩衝帯を作り、イスラエルが北部を一時支配し、国連を巻き込んで北部の安全確認を行います。北部については最終的にパレスチナ自治区が責任を持った自治を行う約束を取り付け、時期を見てパレスチナに引き渡すという覚書を交わします。

その上でガザ地区南部の一般人、特に女性や子供、高齢者、病人を収容できるた難民キャンプを北部に設営し、水や食料、インフラを提供し、南部からの移住を進めます。

一方、南部は上記人道支援と北部難民キャンプへの移動を優先しながらハマスの要塞を引き続き破壊するというプランを提示することかと思います。ハマスにとってイスラエルとの間にガザの一般市民の難民キャンプがあることで戦闘はしにくくなると考えています。

私がなぜそう考えるか、といえばこれ以上イスラエルのイメージが悪化すると世界経済や政治に影響が出る可能性があると考えています。西側諸国にはユダヤ人の重鎮が多く、彼らの功績は現在の世界を維持するための多大なる影響力を持っています。その支えがなくなるとユダヤだけではなく、アメリカにとって大変困ることになると考えています。

ブリンケン国務長官は民主党故の穏健派というわけではなく、ユダヤの背景を十分に知る人ゆえに極めて難しいかじ取りを迫られていると考えています。

むやみやたらで目的と目標と行方が分からぬ戦争は避けるべきと考えます。

最後に、もしもイスラエルの戦いにひと段落したらブリンケン氏が大統領選に出馬するというもアリではないかと考えます。そうすればバイデン氏は席を譲ると思います。

バイデン大統領とネタニヤフ首相 同首相SNSより

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年11月10日の記事より転載させていただきました。