国連のSDGs(Sustainable Development Goals)、即ち、持続可能な開発目標は、社会的問題の解決における企業の役割を前提にしたものである。その目的は、まさに理性が支配する世界市民社会の実現へ向けた重要な第一歩として、国家の枠を超えた普遍的なものとされ、故に、各国政府の主体的関与を求めるだけでなく、当然に企業の積極的な関与を期待したものだと考えられていて、事実として、多くの企業が主体的関与を表明しているわけである。
SDGsは、一定の修正を踏まえた資本主義の経済原理として、企業の合理的な利益追求の競争によって、資源の適正配置と、富の公正な配分が実現していくことを前提にしているはずである。そして、情報基盤を支配する企業に対しては、支配者としての優越的な地位を濫用することによる利益よりも、利用者の利益を適切に守り、公正な企業行動に徹することの利益のほうが大きいことについて、企業の合理的判断のなされることが期待されているのである。
SDGsの掲げる長期的課題に対して、企業経営の時間軸を適合させるために、様々な工夫で補完することは、実効性のあるSDGsに不可欠である。まず、その第一は、ESG(Environment、Social、Governance)の名のもとに、金融機関に対して、環境等の社会問題解決において積極的役割を演じるように期待することである。つまり、投融資実行の判断基準として、SDGsの視点による評価が重視されれば、被投融資先の企業行動は大きな影響を受けるわけである。
第二は、企業にSDGsへの関与を積極的に開示させることである。開示には規制による強制という手法もあるが、より重要なのは企業の自己宣伝という側面を刺激することである。SDGsへの関与が企業価値を高める、それは信念であって事実ではないが、その信念を多くの企業が公表し、それにそって行動すれば、一種の競争が生じて社会変動が加速し、結果的に信念は事実に転化するのである。
そうはいっても、SDGsやESGに、多くの矛盾、欺瞞、虚偽、非合理、危険の内包されていることは否定できない。しかし、重要なことは、理性が支配する世界市民社会の実現を、それらの欠陥の理由にして断念することではなく、欠陥を克服できると信じて、その努力を徹底的に継続することである。
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森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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