人手不足社会では「大学進学は損」

黒坂岳央です。
社会の人手不足の顕在化が著しい。地方の新聞ではタクシーやバス不足が連日記事になっているし、ライドシェアの導入議論が起きる理由の1つが移動に携わる人材不足から来ている。また、物流や建築における人手不足も大きな課題だ。有効求人倍率が高い業種はいずれも労働集約型産業が目立つ格好となっている。

その一方、すべての産業が人手不足ではない。たとえば一部のデスクワークでは、流動性の低い求人に多くの人が応募しているような状況だ。「総務職」などはその筆頭である。

このような構図は大きなイノベーションが起きない限り、転換するどころか深刻化していくだろう。国交省は高速道路に物流カートレーン敷設を進めているが、こうした取り組みも短期的になんとかなる問題ではない。こうなると誰もがホワイトカラー職を前提とした大学進学も根本から考え直さなくてはいけないだろう。

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大学全入時代は時代にミスマッチ

今やほとんどの人が大学進学をする時代である。データを出そう。文部省が発表した2022年の学校基本調査で、短大・専門学校含む「高等教育機関への進学率」83.8%で過去最高となっている。昨今の出生率低下の一員にもなっているのが我が子への養育費の高騰であり、その中には学費も大きな割合を占める。

巨費と4年間を使って高等教育を受ける理由の一つに、ホワイトカラーなど頭脳集約型産業で働く人材を目指すことがあげられる。確かにホワイトカラーは必要であり、とりわけエンジニアなど技術職は求められている。だが問題は「数」だ。大卒者全員が高度な専門職につくわけではなく、過去記事Fラン大への進学は1000万円の損で書いた通り、モラトリアム目的で大学に進学するものは多い。特にFランと呼ばれる学校で貴重な4年間の期間と1000万円にも登る投資額がモラトリアムに消えていくのは、日本経済全体で見た場合の資源的な損失になっているのではないだろうか。

大学全入時代はこれからの時代にマッチしない可能性があると思っている。

高卒のハンディは低下する

これまでの時代は大学は行けたら行った方がいい、という時代だった。確かに大卒はある種、企業のデスクワーク職へのパスポート的な役割があり大学名に関わらず「大卒」である強みはあった。得をすることはあっても損をすることはなかったのだ。

しかし、現況の人手不足が進めば状況は変わってくる。単に大卒資格には1000万円と4年間の若い時期を差し出すコストがのしかかってくることを考慮する必要がある。そうなれば恒久的に人手不足見込まれ、大卒、大学院卒の資格を必要としないなら高卒がハンディになるリスクは今より低下するだろう。

たとえば電気・電子・機械・半導体といった自動車産業など国家の基幹産業でも、高卒を対象とした多くの求人があるし、物流や建設でも当面は人手不足を克服することは難しい。1つのデスクワーク職の空席を10倍以上の倍率で奪い合い、しかし高度な専門性ではないため年をとると企業にしがみつくしかなくなってしまう仕事よりも、今後も多くの空席がある場所で知識と技術を磨いて長く活躍する方が人生戦略の面でも合理的判断になり得る。

世の中はデスクワーク職だけではないし、人手不足の産業では高卒は決定的なハンディにはならない場面も多い。終身雇用制度が崩壊し、企業の存続期間も減少していけば個人レベルでも「適材適所」を考慮しなければならないだろう。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。