イランが自国の外交を自負する時

パレスチナ自治区のガザ地区を2007年以来実効支配しているイスラム過激派テロ組織「ハマス」が10月7日、イスラエルとの境界網を破壊し、イスラエルに侵入、1300人余りのイスラエル人を殺害し、人質200人以上を拉致したテロ奇襲事件以来、報復に乗り出したイスラエル軍とハマスの間で戦闘が続いている。イスラエルのネタニヤフ首相は13日、「ハマスはもはやガザ地区の支配を失った」と表明し、人質解放に向け新たな交渉が進められていることを示唆したばかりだ。

イラン外交の成功を自負するイラン外務省のカナ二報道官の記者会見(2023年11月13日、イランIRNA通信サイトから)

ハマスのテロ襲撃直後、ブリンケン米国務長官はイスラエルを複数回、訪問し、エジプト、レバノン、ヨルダンなど周辺国家を訪問し、ガザ紛争が拡散しないように説得外交を展開させ、イスラエル側には自衛権を擁護する一方、パレスチナ人への犠牲が増えないように要請してきた。それに対し、イラン側は、シオニスト政権(イスラエル)への対抗という大義を掲げ、アラブ・イスラム国首脳と会談を重ね、ハマスへの連帯、パレスチナ人への支援を求めてきた。中東を舞台とした米国とイランの外交戦が展開中だ。

イランが中東の紛争に積極的に関与するのは、ガザ地区のハマスを軍事的、経済的に支援、レバノンのテロ組織「ヒズボラ」にも軍事支援を実施するなど、宿敵イスラエル打倒に向け久しく直接的、間接的に関わってきたからだ。無敵のイスラエルがハマスの奇襲テロを受けて、困惑し動揺している時だけに、「イスラエルを倒すチャンス」としてアラブ・イスラム諸国にシオニスト政権打倒を呼び掛ける外交を積極的に推し進めているわけだ。

イラン国営放送IRNA通信は13日、「アラブ諸国とイスラム諸国を動員し、シオニスト政権の犯罪に対する国際社会の関心を集めるイランの外交努力は成功している」という長文の記事を掲載している。ナセル・カナニ外務省報道官(Nasser Kanaani)は13日の記者会見で、「イスラエル・ガザ戦争の開始以来、イランは戦争を止め、封鎖を解除し、沿岸地域に人道支援の回廊を直ちに開くことなどを重点に外交努力を重ねてきた」と説明している。

サウジアラビアの首都リヤドで11日、アラブ連盟(21カ国1機構)とイスラム協力機構(OIC、56カ国、1機構)合同の臨時首脳会談が開催されたばかりだ。同会議は、パレスチナ人への連帯と支援、パレスチナ民族の大義とエルサレム問題への立場を再度確認する一方、イスラエル軍のガザ攻撃の即時停戦、パレスチナ住民への人道的援助を支持している。

ちなみに、同会議はサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が議長を務め、アラブ連盟のアブルゲイト事務総長、OICのターハ事務総長、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のラザリーニ事務局長、トルコのエルドアン大統領、イランのライシ大統領、エジプトのエルシーシ大統領らの要人が参加した。イラン外務省によると、サウジのリヤドで開催されたOICではエジプトとイラン両国の大統領会談が実現した。両国首脳会談ではラファ検問所の開通問題が重要な議題の一つであったという。

同報道官は「OIC首脳会議の開催は成功だった。この会議はイランの外交努力とサウジの建設的な協力の結果として実現された」と強調。そして「パレスチナ国民は、イスラム諸国政府が会議の開催や確固たる声明の発表に加え、現実的な措置を講じることを期待している。シオニスト政権との政治的・経済的関係の断絶と同政権の外交官の追放は急務だ」と付け加えている。

イラン外務省のカナニ報道官は記者会見で、イランがハマスを経済的、軍事的に支援していることに対し、「わが国の支援は秘密ではなく、それを隠してはいない。この地域の抵抗勢力(ハマス)はイランからの命令を受けておらず、我々もいかなる命令も出していない」と述べる一方、「米国こそシオニスト政権を支援する、容認できない行動を正すべきだ」と主張している。

同報道官はまた、イランは当初から戦争の拡大に懸念を表明しており、シオニスト政権への米国の支持継続と停戦確立への反対は新たな戦線の開放につながると警告してきたとして、「米国が、直ちに殺害を停止し、全面封鎖を解除し、地域から軍を撤退させることによってのみ、戦争が他の地域に拡大する可能性を防ぐことができる。中東の紛争拡大防止は完全にシオニスト政権とそのスポンサーである米国政府の行動次第だ」と説明している。

IRNA通信が報じた外務省報道官の発言を読む限りでは、イランはパレスチナ人問題での同国の関与に自信を深めているようだが、イラン国内の状況を振り返ると、停滞する国民経済、失業者の増加、女性のスカーフ着用問題で浮上してきた人権弾圧政策への国際社会の批判など、聖職者支配体制を取り巻く状況は不安定だ(「イランが直面する『3つの問題』」2023年1月31日参考)。

イランの外交は徹底した反米、反イスラエル路線であり、ここにきてロシアと中国の2大独裁国家との関係を深めてきている。イランの核開発計画は単に中東地域だけではなく、世界の脅威と受け取られている(「イラン『濃縮ウラン83.7%』の波紋」2023年3月2日参考)


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年11月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。