「利益率16%減」余裕なきバルミューダの新事業

バルミューダが、「小型風力発電機開発」に乗り出す。

少ない電力でモーターを回す扇風機の羽構造を応用し、少ない風で効率よくモーターを回し発電する。「逆転の発想」とも言える。しかし、技術的にどの程度応用が効くのか。相乗効果がどのくらいあるのか。いまのところ不透明だ(来月の第45回風力エネルギー利用シンポジウム 」の発表が待たれる)。

バルミューダ プレスリリースより

「まずは収支バランスが取れた形での黒字化を最速で達成したい」
バルミューダ株式会社 2023年12月期 第3四半期決算説明資料

「結果を出すのに5年、10年といった長い時間軸の物差しを出すつもりはない。もっとスピーディーに取り組むべきで、きちんと結果を出すことができると考えている」(バルミューダ 寺尾玄社長)
バルミューダ社長「終えたスマホと、家電・風力発電を結ぶもの」:日経クロストレンド

このように述べるバルミューダは、やや前のめりに見える。

そんな余裕はあるのか。決算説明会で報告された今期見込みは、かなり厳しい。

粗利率15.9ポイント減

売上高はピーク時3割減の133億円。純利益は20億円の赤字。

特に問題なのが売上高総利益率(粗利率)だ。

ピーク時の「43.3%」から、15.9ポイント減少し「27.4%」に落ち込む。これは、同分野の製品を扱う「株式会社ツインバード(旧ツインバード工業株式会社)」の粗利率「31.7%」(2023年2月期)を大きく下回る。

粗利率を構成するのは、製品の「売上金額」と「原価金額」だけ。製品力を示す指標であり、ざっくり言えば「付加価値」だ。

これまで同社製品の付加価値が高かったのは、「ブランド」に負うところが大きい。

「当社は『高級』『アート性が高い』『革新的』とのブランド認知を持っている」
バルミューダ株式会社 2020年12月期決算説明会

バルミューダがこう述べたのは2年以上前のこと。

いまや、「アート(デザイン)、革新性」はバルミューダの独擅場ではない。

優位性の喪失

先に例示した家電メーカー「ツインバード」は、「匠プレミアム」「感動シンプル」といった新規ブランドを立ち上げている。従来の老舗的なイメージに加え、「ミニマリズム」「共感できるストーリー」といったコンセプトを全面に打ち出す。

匠プレミアムブランドから発売された「匠ブランジェトースター」は、グッドデザイン賞を受賞。

「一般的な家電の佇まいとは一線を画す、釜のような凜とした佇まいにまず目を奪われる。 『パンの焼かれる様が魅力的であること』というテーマの通り、余計なノイズのないデザインが徹底されている」

と高い評価を得た。

GOOD DESIGN AWARD「 匠ブランジェトースター」より

「タイガー(タイガー魔法瓶株式会社)」は、今年2月、自動サイフォン式コーヒーメーカー「Siphonysta(サイフォニスタ)」を発売している。長年培ってきた“スチーム技術”と“熱制御技術”を駆使し、サイフォン式コーヒーの抽出自動化を実現。外観はミニマルデザインを採用。見た目も味わいも楽しめるのが特徴だ。

「噴水のように美しい抽出の演出と、洗練されたデザイン」

と、バルミューダのお株を奪うかのようなキャッチコピーを用いた。

タイガー魔法瓶株式会プレスリリースより

高い技術力を持つ老舗メーカーが、「『高級感』溢れ『デザイン性』が高く『革新的』」な製品を作っている。バルミューダの優位性は薄れつつある。自社の足元を見直す時期ではないだろうか。

新規事業は「ジャブ」から

21年度、バルミューダはスマートフォン事業に「必要な投資」として、エンジニアを大量採用。従業員を30人近く増加させた。今期末は一転、数十名の「人員削減」を行うという。

ボクシングをたしなむ寺尾社長ならわかるはず。

「最初からフルスイングは禁物」。

いきなり渾身の「右ストレート」を放ち、カウンターを食らい、KOされたスマートフォン事業と同じ轍を踏んではならない。まずは「ジャブ」で距離を測ること。自社の強みと新事業との相乗効果を見極めること。

今期損失が予想通り20億円となれば、利益剰余金は前期の半分以下になる。残るスタミナは十分ではない。使うべき対象は他にある。

寺尾社長は、2年前のバルミューダフォン発表会見で以下のように述べた。

「この会社しばらく潰れないんじゃないかな、って思いました」
「やりたいことをするときが来たんじゃないかな」

今のバルミューダにそんな余裕はない。

筆者撮影

【参考】
ツインバード株式会社 決算書
スマホ参入で逆風のバルミューダ 「大化け」への条件|日本経済新聞