なぜ戦闘し、なぜ休戦するのか

戦闘中の当事国とその国民には不謹慎なタイトルとなったかもしれない。イスラエルとパレスチナ自治区ガザのイスラム過激テロ組織ハマス間で24日から休戦に入っている。その間、双方で人質を解放し、人道的救援物質などがガザ地区に運び込まれている。

ゼレンスキー大統領夫妻、ホロドモール(大飢餓)犠牲者への追悼(2023年11月25日、ウクライナ大統領府公式サイトから)

ガザ地区の1人の中年のパレスチナ人男性が、「どのような合意内容が締結されたかは知らないが、ミサイルの炸裂する爆音を聞かなくてもいいので嬉しい。できれば明日もそうあってほしいね」と吐露していたのが印象的だった。

一方、テルアビブやエルサレムでは人質の全員解放を願ってイスラエル人が集まり、祈祷しているシーンがテレビで放映されていた。人質解放2日目に妻と娘さんを解放されたイスラエル人男性は、「嬉しいが、依然多くの人質が解放されていないので、まだ喜ぶことはできない」と述べていた。

イスラエルのネタニヤフ首相はイスラエル現職首相として初めてガザ地区に入り、前線で戦うイスラエル軍を視察し、兵士たちを激励していた。同首相は、「人質全解放とハマスの壊滅という2つの大きな目標は変わらない」と強調する一方、「可能ならば休戦を延期して人質を全員解放したい」と述べていた。人質解放初日、2日目、そして3日目と休戦状況は継続し、人質も解放される度に、イスラエル国民は喜びを表す、その姿を見ているネタニヤフ首相は休戦を4日間で終え、戦闘を再開するとは言えなくなってきているかもしれない。

一方、ハマスは人質解放の履行では少し遅れが出てきている。人質解放が遅れたために、イスラエル側から「零時前に履行しなければ戦闘を再開する」という最後通告を受けたが、土壇場で人質解放は無事行われた。外電によると、10月7日のイスラエル奇襲テロを実行したハマス指導者4人のうち、3人がこれまでの戦闘で死亡したというから、ガザ地区のハマスは指導者不在の状態なのかもしれない。

休戦での懸念はハマスのほか、イスラム過激テロ組織イスラム聖戦の動きだ。10月7日のテロはハマスと共に実行していた。彼らも人質を取っている。だから、ハマスがイスラエル側と休戦に合意しても、イスラム聖戦が納得しなければ、休戦合意が破棄される危険性が出てくる。ちなみに、人質解放初日にはイスラム聖戦が拘束していたイスラエル人の人質が1人含まれていたというから、現時点ではハマスの命令のもとに動いていることが確認されている。

ハマスは10月7日、イスラエル側に侵入し、1300人のイスラエル人を殺害。それに対し、イスラエル側はハマス壊滅を掲げて報復攻撃を開始、連日ガザ地区のハマスの軍事拠点を空爆。そして地上軍を派遣し戦闘を展開、ハマスの地下トンネル網を破壊し続けてきた。そしてカタール、エジプト、米国らの仲介もあってイスラエルとハマスの間でまず4日間の休戦、人質の解放が合意された経緯がある。

3日目の人質解放が無事履行された直後、4日目以降も休戦を続け、人質を解放すべきだという声が、バイデン米大統領から流れてきている。それを受け、欧米メディアでは「休戦はいつまで続くか」「戦闘はいつ再開されるか」という見出しの記事が見られてきた。その予測記事を読んで少し違和感が出てきた。

戦闘はハマスの奇襲テロがきっかけだ。休戦はイスラエル軍の空爆などでガザ地区の住民の人道的危機が生まれてきたこと、人質解放へのイスラエル国民の声の高まりなどがあって実現した。それなりの理由は分かっているが、その間にイスラエル側に1400人余り、パレスチナ側に1万人以上の犠牲者が出た。どのような理由があるとしても、これまで余りにも多くの犠牲が払われてきた。そして今、4日間の休戦だ。ひょっとしたら、休戦期間は延長されるかもしれないという。ここまで考えていくと、それでは「なぜ戦闘が起き、なぜ今休戦か」といった上記の問いかけが飛び出すのだ。

ロシア軍がウクライナに侵攻して、ロシアとウクライナ両国間で戦闘が始まった。その戦闘は既に2年目が過ぎ、2度目の冬を迎えている。その間、ウクライナとロシア両国で多くの犠牲者が出てきた。中東で戦闘が始まったこともあって、ウクライナ戦争への関心が減少してきたという。戦争が長期化することで、なぜ戦闘するのか、といった問いかけはもはや誰も口に出さないし、新鮮味もない。爆音と警報サイレンに慣れたのはキーウ市民だけではない。カラスでさえ近くで爆弾が破裂してももはや木から飛び立たないというのだ。

だからというわけではないが、初心に帰って問いかけたいのだ。なぜ戦闘し、休戦するのか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年11月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。