米国「 金正恩氏の執務室も撮影中です」

朝鮮中央通信(KCNA)は28日、打ち上げに成功した軍事偵察衛星「万里鏡1号」が米国のホワイトハウスやペンタゴン(国防総省)を撮影したと発表、それらの画像を見て金正恩総書記は「大きな満足」を示したと報じた。

金正恩総書記、道・市・郡人民会議代議員選挙に参加(KCNA公式サイトから、2023年11月27日)

同日の韓国の通信社聯合ニュースによると、「北朝鮮は21日夜に偵察衛星を打ち上げて以降、朝鮮半島だけでなく米領グアムやハワイなどにある韓米の主要な軍事基地を撮影したと主張し続けているが、その衛星画像は公開していない。北朝鮮は同衛星が打ち上げ後1週間から10日間の『精密操縦』を経て、12月1日から正式に偵察任務に就くと説明していた」という。

偵察衛星の開発では後発国の北朝鮮にとって独自に打ち上げた偵察衛星から宿敵米国の大統領執務室のあるホワイトハウスを撮影し、ペンタゴンを撮影したということは文字通り、大成果だろう。金正恩氏が「大満足」したのも頷ける。

ところで、北の偵察衛星はホワイトハウスやペンタゴンだけを撮影したのだろうか。KCNAによれば、太平洋グアムのアンダーセン空軍基地、米バージニア州のノーフォーク海軍基地などを撮影したというが、ひょっとしたらディズニーランドやシーワールドの場所も撮影したのではないか。ただ、KCNA通信は前者だけを言及し、後者は非公開にしたのではないか。

金正恩氏は2011年12月父親の金正日総書記の死後、政権を継承して以来、「人民」の生活向上を機会ある度に強調したが、具体的には、綾羅人民遊園地を完成し、平壌中央動物園の改修、そして世界的なスキー場建設など、遊戯用インフラの整理に腐心してきた。その後、空の玄関、平壌国際空港が近代的に改築オープンした。ただし空腹に悩まされる北の一般国民が遊園地やスキー場に足を運ぶだろうか、海外旅行の自由もない人民に、国際空港の近代化はどんな意味があるのか、といった素朴な疑問が出てくる。

子煩悩の金正恩氏が何を最も喜ぶかを知っている側近たちはホワイトハウスやペンタゴンの写真などと共に、ディズニーランドやシーワールドを撮影した写真の画像を金正恩氏に見せたのではないか、というのが当方の推測の根拠だ。

北朝鮮は昨年11月18日、全米を射程内に置く新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の発射試験を行ったが、その発射現場に金正恩氏の娘「金ジュエ」が随伴していたことで大きな話題を呼んだことを思い出してほしい。偵察衛星の画像の件で金正恩氏が「大満足」を表明した時にも、KCNA通信の写真を見る限りでは、ジュエさんが写っていた。彼女はホワイトハウスやペンタゴンの写真よりディズニーランドの写真のほうを喜ばないのだろうか。

北朝鮮は今年5月、軍事偵察衛星の打ち上げに失敗、2回目も同様だったが、それを3カ月余りの時間で、打ち上げに成功し、画像撮影にも成功するということは通常の開発プロセスとは言えないから、韓国の情報機関・国家情報院(国情院)はロシア側の技術的支援があったと推測している。

北朝鮮の軍事偵察衛星の打ち上げは国連安保理決議違反に当たるが、27日に招集された安保理会合ではロシアと中国が反対したために、何の対応も取れずに終わったばかりだ。

参考までに、米国の軍事偵察衛星(通称キーホール)の解像度は15センチともいわれているが、実際は5センチまでの解像力を有するという。キーホールは金正恩氏の官邸執務室はいうまでもなく、金氏の国内の複数の保養地も写真撮影しているはずだ。金正恩氏は米偵察衛星キーホールの目から逃れることはできないのだ。

キーホールの威力はロシア軍がウクライナに侵攻する際も実証された。米国はロシア軍の動向を偵察衛星からの写真でキャッチし、同盟諸国にロシア軍侵攻の可能性を数日前に警告していた。

北の偵察衛星がホワイトハウスの写真を撮影したことを金正恩氏が喜んだというニュースを聞いて、ホワイトハウス関係者は多分、笑いを禁じ得なかったのではないか。米国の軍事偵察衛星は24時間、金正恩氏の執務室を監視し、撮影し、その画像をホワイトハウスに送っているからだ。

北の偵察衛星がキーホールと同程度の地上分解能を得るまでにはまだ多くの時間が必要だろう。ただし、近未来の話だが、北の衛星能力が向上すれば、敵国、特に、米国の軍事偵察衛星への宇宙戦を仕掛けてくるはずだ。その結果、北朝鮮問題は地上から宇宙空間へと舞台を広げていくことになる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年11月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。