ネット上に「平均的な人」はいない

黒坂岳央です。

誰もがネットで情報収集をする時代になった。少し前まで調べ物をしたいと思ったら「まずは書店か図書館へ」だった筆者自身も、とりあえずググる、動画検索、SNS検索となった。同じようにまずスマホで調べるという人は多くなっただろう。

数学の問題や英文法の解説、おすすめの観光地や見どころを調べるということなら、確かにネットで情報収集は便利である。問題はネットの情報を過信して本来は結論が出ていないグラデーションのかかった分野まで「答え」を探してしまうことだ。そうなると調べれば調べるほど、どんどん正しさから遠ざかっていく。そんな人が増えてしまったのが現代社会だ。

Pict Rider/iStock

医師の問診よりネットの書き込みを信じる患者

親族に女医がおり、本人から聞かされた話だが、「ネットの書き込みを見た患者に苦労させられることが増えた」という。どういうことか?

不調を訴えてやってきた患者の問診をして問題ないことを伝えるも、「先生よく見てください。間違いなくこの病気になっているはずです。自分はこの症状が出ています」と言われて差し出されたスマホには匿名掲示板の書き込みや、SNSの投稿が写っているのだという。医師が実際に患者の体を見て判断を出しているのに、どこの誰ともわからない人の書き込みの方を信じてしまう。明らかにネットの情報収集で正しさがわからなくなってしまった事例の一つだ。冷静に考えれば、数多くの患者を診察した経験と高い専門知識がある医師が直接体に触れて見ているのだから、明らかに信頼性は高い。診断結果に疑いが残るなら、別の医師のセカンドオピニオンを求めるのが合理的判断といえる。

おそらく、同じことが弁護士や税理士など高度専門職についても起こっていると考えられる。人によっては生成AIから作成された記事や動画を信じてその「証憑」を持ってくるようになるだろう。

ネットに「普通の人」はいない

自分はYouTubeに英語学習動画を出している立場で、視聴者から学習相談をよく受ける。自分の提唱する学習法を信じて勉強を頑張る人にはぜひ全員が成功してもらいたいと強く願うが、現実的に全員成功できるわけではなく途中でやめてしまう人もいる。問題はそのやめてしまう理由に「ネットの情報収集をやりすぎたから」というものがあるのだ。

多くの場合、勉強をしているとどうしても自分と周囲との差が気になってしまうものである。そこでネット検索をする。そうすると「この試験は◯週間で誰でも合格できる」といったやたらと最短最速、近道、裏技、魔法といった煽りに溢れかえっている。そういった煽り情報ばかり見てしまうと、「自分は平均的な学習者より遅い」と強烈な置いていかれ感の焦りが生まれ、本来の自分の実力以上の結果を求めて最後に挫折してしまう。

英語の勉強は婚活やビジネスなどと違ってライバルはいないのだから、誰も見ないようにして毎日淡々と力のつく学習を積み重ねるだけでしっかり伸びる。それなのにネットで情報収集をすればするほど、自分自身で自滅の可能性を高めてしまうのだ。

考えてみればネットに「平均的な人、普通の人」は可視化されない。成功者の顔をして何かを売って金銭を得たい人、嘘をついて注目を集めて気持ちよくなりたい人、有益な情報を発信して価値提供をしたい真っ当な人、影響力を得てビジネスに活用したい人、だいたいどれかに当てはまることが多いだろう。

「普通の人」はネットに記事や動画、SNS投稿をしない。日々の仕事や家事育児で忙しくして「見る専」という人が圧倒的大多数だろう。継続的に発信してアクセスを集める、という目的を持って活動している時点でリアルでは極めて少数派であり、「普通の人」ではないのだ。

これは個人的肌感覚の域を出ないが、自分は保護者会などで多くの同年代の人とリアルで顔を合わせる。SNSの利用状況についての話が出てもせいぜいFacebookやインスタで旅行の写真を出している、学校や地域のLineグループとかその程度である。自分のように実際は積極発信しているが隠している人もいるかもしれない。だが全体から見てかなり例外的だろう。

ネットには「普通の人」はほとんどいないのだ。

SNSや動画の世界ではやたらと華々しい人ばかりが目立つ。投資界隈では資産は30億とか50億といった規模を運用していたり、サラリーマンも年収2000万円がゴロゴロ、起業していれば毎年1億円で安定というアカウントも多い。そうしたものばかり見ていると、ドンドン感覚が歪んできてネットに可視化されない圧倒的大多数が見えなくなってしまう。ネットは使いすぎると逆に情弱になるのだ。

 

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