戦時下のウクライナで2度目の冬到来

雪が初めて降った日はこのコラム欄で必ず記したものだ。初雪の日を忘れないためという意味もあったが、雪が初めて降った日はやはり特別な思いが湧いてくるからだ(「雪が降る日、人は哲学的になる」2015年1月8日参考)。

ドイツのショルツ首相と防衛政策の協調で電話会談するゼレンスキー大統領(2023年11月30日、ウクライナ大統領府公式サイトから)

8年前のコラムの中で「『ベートーベンの生涯』を書いた作家ロマン・ロランは『ウィーンはどこか軽佻(けいちょう)な街だ」と表現している。非日常的なイベントで明け暮れる観光の街に住んでいると、人々は落ち着きを失い、内省する習慣もなくなっていく。例外は雪が降る日だ。ウィーン子は雪の降る日、人生について考え出すのだ」と書いたほどだ。

その音楽の都ウィーンはここ数年、雪が余り降らなくなった。地球の温暖化のせいかは知らないが、暖冬が続いたので重いマンテル(外套)を着て冬用の靴を履く、ということはここ数年なかった。

雪が降らなければ、雪掻きをするサイドビジネス(お小遣い稼ぎ)をしている人々にとっては収入源の喪失を意味する。雪掻きの仕事を希望する市民は市当局の担当部署に登録しておく。そして雪が降って、路上の雪掻きが必要となれば、市当局から登録していた市民に電話が入る。通常、早朝、3時、4時ごろから雪掻きが開始される。

アルプスの小国オーストリアのチロルなどアルプス山脈地域は、ウインタースポーツのメッカだ。ただ、アルプスの地域でも雪が十分に降らないためにアルペンスキーW杯大会が開催できないという事態もあった。

幸い、今年はそのようなニュースは届かない。今夏は例年にない暑い日々が多かったというニュースを聞いたばかりだったが、ここにきて「今年の冬は寒くなるだろう」という予測が出ている。

今年のウィーンの初雪は11月25日から26日にかけて降った。ただ、太陽が昇るとすぐに消えてしまった。そして12月2日、本格的に雪が降った。自宅のベランダには約30センチの雪が積もった。本当に久しぶりの雪だ。その翌日(3日)、近くの教会から朝7時を告げる鐘の音がいつもより小さく響いてきた。教会の鐘の音が積もった雪に吸収されてしまったのだろう。路上から聞こえる音も3日が日曜日ということもあるが、静かだ。

ところで、ウィーンから1000キロも離れていないウクライナでは既に冬が始まっている。「初雪だ」といって当方のようにのんきなことをいっている場合ではない。ウクライナの冬はウィーンより寒い。ウィーン大学で学生が「今日は寒いわ」と呟くと、キーウ出身の女学生が「寒い?この程度の寒さなど問題ではないわ。ウクライナではマイナス20度は普通」と答えたという。「ウィーンの寒さ」と「キーウの寒さ」では大きな差があるわけだ。

ウクライナ国民にとって寒さだけではない。ロシア軍の攻撃を受け、電力・水道などの産業インフラが破壊されたこともあって、停電は日常茶飯事、自宅で温かいスープで寒さをしのぐといった贅沢なことは難しい。爆撃で窓が吹っ飛んでしまったアパートメントに住むキーウ市民は新しいガラスは直ぐに手に入らない。寒さがもっと厳しくなる前にビニールを貼って緊急処置をする。

マイナス20度、停電、空腹の状況下に生きている人々がどんなに大変かは体験しないと理解できないだろう。ロシア軍と戦うウクライナ兵士は更に大変だ。生命の危機を常に感じながら、戦場でロシア軍兵士と闘っている。冬になれば、通常の戦闘は難しくなるから、無人機攻撃やミサイル攻撃が中心となってくる。兵力の増強を決定したロシア軍は戦時経済体制のもと武器を依然十分保有しているから、欧米諸国からの武器供与に依存するウクライナ軍はやはり不利だ。

ウクライナ軍によると、ウクライナ軍とロシア軍の間の戦闘はここにきてウクライナ東部に集中している。アヴディウカ戦線では、過去24時間に20回のロシア軍の攻撃が撃退された。ウクライナ軍参謀本部の最前線報告によると、ロシア軍はバフムートを15回攻撃した。ウクライナ南部ヘルソン地域では、ウクライナ軍がドニプロ川南岸の新たな陣地を維持しているという。

ウクライナ戦争は来年2月24日でまる2年目を迎える。ウクライナ国民の祖国への愛国心、防衛の決意は途絶えていないが、2022年上半期のような高まりはないだろう。犠牲者も増えれば当然のことだ。この冬を何とかして乗り越えなければならない。ゼレンスキー大統領はどのような思いを持ちながら、国の指揮をとっているのだろうか。同大統領は11月30日、AP通信とのインタビューの中で「期待した成果は実現していない」と、現状が厳しいことを認めている。

欧米諸国はウクライナ支援の継続と連帯を繰り返し表明しているが、欧州諸国(EU)の27カ国でも対ウクライナ支援で違いが出てきている。スロバキア、ハンガリーはウクライナへの武器支援を拒否し、オランダでも極右政党「自由党」が11月22日に実施された選挙で第一党となったばかりだ。もはや前政権と同様の支援は期待できない。欧州の盟主ドイツは国民経済がリセッション(景気後退)に陥り、財政危機に直面している。対ウクライナ支援でも変更を余儀なくされるかもしれない。最大の支援国・米国では連邦議会の動向が厳しい。共和党議員の中にはウクライナ支援のカットを要求する声も聞かれる、といった具合だ。もちろん、イスラエルとハマスの戦闘は米議会の関心を中東に傾斜させているため、ウクライナへの関心は相対的に薄くなりつつあることは事実だ。

ウクライナ国民は今、内外共に厳しい時を迎えている。ウィーンで空から静かに落ちてくる白い雪を見つめていると、キーウ市民はどのような思いで今、雪を眺めているだろうか、と考えざるを得なかった。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年12月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。