周庭(アグネス・チョウ)というより、彼女の画像を見れば「あぁ、あの子」と思い出す方も多いでしょう。流ちょうな日本語を操りながら、日本のメディアにも何度も登場しました。香港が民主化運動で荒れ狂っている最中、愛くるしい顔をした彼女はその先頭に立ち、民主化を進めるための運動をしていました。香港では「学民の神」とも称され、2020年にはBBC放送主催の「今年の女性100人」の一人に選ばれています。
その彼女が香港警察に捕まった後、収監され6か月以上を経て仮釈放、そしてカナダに留学目的で今年9月からトロントにいます。その彼女がごく最近、声明を発表し、「おそらく一生香港には戻らない」とインタビューで明かしました。これを受け、香港政府トップの李家超(ジョン リー)行政長官は保釈や渡航を認めるなどの「警察の寛大な対応が裏切られた」とし、「全力で逮捕する」(日経)と述べています。
香港政府トップの発表=中国の威信とも言える発言は27歳のアグネスに対する絶対的な挑戦状であり、どんな手を使ってでもそれを行使を試みることでしょう。カナダ政府は今のところなんら声明を発表していません。現状、たぶん、学生のステータスで入国しているものと思われますが、アグネスのインタビューからは亡命申請も選択肢の一つと述べています。香港政府が「実質的亡命」と述べているのですが、その「実質」を確定させるための亡命申請をアグネスは今すぐに行うべきでしょう。そしてカナダ政府は彼女を本格的に保護すべきです。さもないと極めて危険な状況に追い込まれるでしょう。
カナダと中国の間にはかつては深い交流と絆が形成されてきました。97年の香港返還時にはカナダはオーストラリアや英国と共に最も人気がある移民先となり、バンクーバーとトロントはその移民のメッカとなります。バンクーバーの香港移民が比較的早い時期に香港に帰国したのに対してトロントの移民層は比較的多くが残ります。一方、バンクーバーは香港人と入れ替わりに本土人が入り込み、使う言語も広東語から北京語主体になってきています。
その点、トロントはまだ香港系の足掛かりも経済基盤も残っており、バンクーバーよりは居心地がよいと察します。
しかし、カナダには中国のスパイがうようよいます。アグネスの動向など極めて詳細に本土と香港警察に筒抜けになっているはずです。ましてや香港政府のトップが本気となれば何をしてもおかしくないのです。
今、カナダと中国の外交関係は冷たい時期にあります。トルドー氏と習近平氏のウマが合わないこともあります。仮にカナダ政府がアグネスの亡命を認めた場合、香港政府は彼女をつかまえ、中国に連れ帰ることは表むきは出来なくなります。が、「本気」という意味は別の意味も考えられる点を私は非常に懸念しています。そしてカナダ政府は中国政府とどこまで対峙する用意があるか、腹の座り具合を図ることになるでしょう。
トルドー政権は正直、冴えないです。そして表向きは自立と称しながらも常にアメリカの顔色をうかがっています。しかし今、アメリカの顔色をのぞき込んでも何も見えない、それが正直なところです。11か月後に大統領選を控える中、バイデン氏は中国とのやや雪解け的な外交スタンスを取る中、カナダ外交は切り札が無いのです。同じことはインドのシーク派リーダーがバンクーバー郊外で殺害され、外交問題になった時もカナダは姿勢を示したけれどインドからはガキ扱いに近かったと思います。
もう1つは27歳の一活動家のためにカナダ政府が国家の威信をかける本気度を見せられるのか、であります。
私はこれは民主主義の根幹にかかわる戦いになるかもしれないとすら思っています。本来声を上げられらたはずの活動家が権威主義により収監され、国家に忠誠を誓わされ、自由が奪われることを見過ごすのか、であります。極めてセンシティブな問題でありますが、これを遠巻きに見るのではなく、民主主義の根幹を守るという姿勢と明白なる声明をカナダ政府は出してもらいたいと思っています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年12月7日の記事より転載させていただきました。