建設業の平均時給:人手不足で上昇中?

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1. 建設業の平均時給

前回は工業について、平均時給に相当する労働時間あたり雇用者報酬をご紹介しました。

日本の工業は、全産業の平均値よりも高い水準ではありますが、国際比較してみると先進国の中でも低い順位となります。

今回は、工業と共に労働者数の減少している建設業について、労働時間あたり雇用者報酬についてご紹介します。

また、OECDの産業区分についても、国際標準産業分類(ISIC REV4)との対応を改めてご紹介します。

図1 労働時間あたり雇用者報酬 日本
OECD統計データより

図1は日本の産業別に見た労働時間あたり雇用者報酬の推移です。

労働時間あたり雇用者報酬は、産出されたGDPの内労働者への分配とされる雇用者報酬を、総労働時間で割った数値です。

建設業(水色)は、全産業の平均値よりやや低い水準が続いていましたが、2018年あたりから急激に上昇して工業をやや上回っています。

2021年には3,100円程です。

建設業は特に人手不足が深刻化していると言われていますので、人件費が上がりやすい状況なのかもしれませんね。

2. 建設業とは?

OECDで区分される建設業は、ISIC REV4の建設業と一致すると考えられます。

更に詳細な中分類まで見ると、具体的にどのような業種が該当するのか明確にわかりますね。

表1にOECDとISIC REV4の分類の対応表を掲載いたしますので、眺めていただければ幸いです。

日本語表記は下記サイトを参照しています。

国際連合 Classification on economic statistics ISIC rev4 Jp

表1 建設業の産業区分

OECD 産業区分 ISIC REV4 大分類 ISIC REV4 中分類
F 建設業
Construction
F 建設業
Construction
41 建築工事業
42 土木工事業
43 専門工事業

道路・鉄道建設業は土木工事業に、解体業や電気設備工事業、配管・暖房・空調設備工事業は専門工事業に分類されるようです。

ISIC REV4の産業分類については、参考記事にもまとめていますのでご参照いただければ幸いです。(参考記事: 国際標準産業分類

3. 建設業の平均時給の推移

それでは、建設業の労働時間あたり雇用者報酬について、各国での時系列変化を眺めてみましょう。

図2 労働時間あたり雇用者報酬 建設業 為替レート換算
OECD統計データより

図2が建設業の労働時間あたり雇用者報酬について、主要先進国の推移をグラフ化したものです。為替レート換算値となります。

日本(青)は1990年代にドイツやフランスを抜き高い水準に達しますが、その後は停滞傾向ですね。

ただし、OECDの平均値やイタリアをやや上回る水準が続いています。

工業が2008年ころから下回っていた事と比べると、相対的に産業の中ではやや高めの水準なのかもしれません。

図3 労働時間あたり雇用者報酬 建設業 購買力平価換算
OECD統計データより

図3はより生活実感に近いとされる購買力平価換算値の推移です。

日本は2010年頃まではOECD平均値よりやや高い水準でしたが、その後はほぼ平均値と同じくらいですね。

近年ではイギリスやイタリアと同じくらいの水準のようです。

建設業ではイギリスの水準がそれほど高くないのも特徴的です。

4. 建設業の平均時給の国際比較

次に、建設業の労働時間あたり雇用者報酬について、先進国の中での国際比較をしてみましょう。

図4 労働時間あたり雇用者報酬 建設業 購買力平価換算 2021年
OECD統計データより)

図4が建設業の労働時間あたり雇用者報酬について、2021年の購買力平価換算値を比較したグラフです。

日本は31.0ドルで、OECD30か国中17位、G7中最下位ですが、OECDの平均値30.9ドルをわずかに上回ります。

実は産業別にみた場合に、日本がOECDの平均値を上回るのはこの建設業だけです。

労働時間あたり雇用者報酬 建設業
購買力平価換算 2021年 単位:ドル 30か国中
1位 49.2 ベルギー
4位 45.0 フランス
8位 41.6 ドイツ
9位 41.0 アメリカ
15位 32.1 イギリス
16位 31.2 イタリア
17位 31.0 日本
平均 30.9

また、建設業の平均時給は、多くの国で全産業平均値よりも低いようです。

2021年で全産業平均値より高いのは、バルト3国と日本だけという少数派となります。

5. 建設業の平均時給の特徴

今回は建設業の平均時給に相当する労働時間あたり雇用者報酬をご紹介しました。

建設業も工業と同様で、先進国の中では水準が低い方になります。

ただし、OECDの平均値を上回り、順位も工業や全産業平均値よりもやや高いようです。

図5 産業別 労働者数シェア 2019年
OECD統計データより

建設業は各国とも縮小傾向で、2019年の時点では労働者数で見ると全体の6~8%を占める比較的労働者数の少ない産業です。

ただし、建設業はインフラの拡大・整備などにはなくてはならない産業ですね。

今後その他の産業についてもご紹介していきますが、日本は産業間で相対的に水準の低い産業が、国際的に見るとやや高めの傾向にあるようです。

逆に金融保険業や情報通信業など産業間で相対的に水準の高い産業が、国際的に見て低めという傾向になります。

言い方を変えれば、産業間の給与格差が小さいと言えると思います。

建設業はその傾向が顕著に表れている例と言えそうですね。

皆さんはどのように考えますか?


編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2023年12月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。