クナイスル元外相の優雅なロシア生活

ドイツのゲアハルト・シュレーダー元首相(首相在任1998年10月~2005年11月)とオーストリアのカリン・クナイスル元外相(在任2017年12月~19年6月)の2人は国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)から戦争犯罪人容疑で逮捕状が出ているプーチン大統領の支持者として知られている。

両者とも久しくロシア国営企業の顧問料という名目でプーチン氏から経済的恩恵を受けてきたことでも知られている。それゆえに、両者とも出身国ばかりか、欧州諸国からは「好ましくない人物」と見られてきた。

河野太郎外相と会合するクナイスル外相(いずれも当時)=2018年7月5日、オーストリア外務省内で撮影

ところで、クナイスル元外相(58)は最近、BBCからインタビューを受けて、移住したロシアでの生活の近況などについて答えている。

元外相の名前が世界に知られるようになったのは、クナイスル女史が2018年、同国南部シュタイアーマルク州で自身の結婚式を行った際、ゲストにロシアのプーチン大統領を招き、一緒にダンスするシーンが世界に流されたからだ。「プーチン氏と一緒に踊った外相」ということでその後、彼女の名前は常にプーチン氏と繋げられて報じられた。自身の結婚式にロシア大統領を招待すること自体、異例だ。そのプーチン氏とダンスする姿が報じられると、オーストリア国民も驚いた。

クナイスル女史は任期期間が短かったこともあって、外相としてその能力を発揮する機会はほとんどなかった。クルツ国民党政権のジュニア政党、極右政党「自由党」から外相に抜擢されたが、自由党のハインツ・クリスティアン・シュトラーヒェ党首(当時副首相)の「イビザ騒動」が契機となってクルツ政権は崩壊した。クナイスル女史はわずか1年半の在任で外相職を失った。その後、プーチン氏とのダンスが縁となって2022年3月までロシア国営石油会社ロスネフチの新役員に就いていた。

クナイスル元外相はプーチン氏から結婚のお祝いに時価5万ユーロ相当の高価なホワイトゴールドで飾ったサファイアのイヤリングをプレゼントされている。クナイスル元外相は外相辞任後もその高価な贈り物を私有していたため、オーストリア外務省は「外国の要人から得た贈り物は任期が終了すれば外務省に返還することになっている」と要求し、「私へのプライベートな贈り物だ」と主張するクナイスル女史と一時期争いがあった(最終的には外務省が保管することになった)。

ちなみに、クナイスル女史はプーチン氏を招いて結婚式を挙行したが、その相手とは2020年4月に離婚している。外相職を失い、夫を失い、そして今、プーチン氏支持者と受け取られて、欧州諸国からはバッシングを受けてきた。いずれにしても、ロシアの独裁者プーチン氏と関係を深めた政治家は平穏な人生を送ることが難しいのは、シュレーダー氏だけではなく、クナイスル女史も同じだ。

クナイスル女史は親ロシア派としてバッシングを受ける日々に直面、オーストリアで職が見つからなかったためにフランスのマルセイユ、そしてレバノンのベイルートに移動したが、最終的にはプーチン氏の出身都市サンクトペテルブルクに住み、同市の大学の分析センターを指導することになったわけだ。最近は、クナイスル女史のポニーがロシア軍用機でロシアに輸送されたことが国際メディアの話題を呼んだばかりだ。BBCは「オーストリアの元外相カリン・クナイスル氏はポニーとともにロシアへ移住した」と報じたほどだ。

クナイスル女史はBBCとのインタビューで、「ロシアで今、快適に暮らしている」と述べ、サンクトペテルブルク大学の「学問の自由」を称賛し、「身近な環境で抑圧を経験していない。ロシアで働く機会を得られたことに本当に感謝している」と語った。

同女史はまた、欧米諸国の対ロシア制裁が「機能していない」、「対ロシア制裁が望ましい結果をもたらしていないことを多くの人が認めざるを得ない」と強調。プーチン大統領については「彼は最も知的な紳士だ」と高く評価している。ロシアのウクライナ侵略についてはこれまでの通り、何も批判していない。

なお、クナイスル女史は、「オーストリアでは、私が現在ロシアの大学で働いているという理由で、私の国籍を剥奪するよう求める声が聞かれる。ウィキペディアによると、私は汚職、反逆罪、そして30年間KGBに勤務していたスパイ容疑で告発されている。この種の汚い中傷はすべて人生を破壊する。だから法的措置が講じられるまでは戻りたくない」と述べ、オーストリアに戻る可能性を否定している。

クナイスル女史は英語やフランス語のほか、アラブ語の達人といわれている。イスラエルとパレスチナ自治区ガザのイスラム過激テロ組織ハマスとの間の戦争について、クナイスル女史の意見が聞けなかったことは残念だった。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年12月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。