AI時代をチャンスにするための視点とは?(後編)(東福 まりこ)

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(前回:AI時代をチャンスにするための視点とは?(前編)

国内市場の縮小からグローバル市場への挑戦が必要に

日本は少子高齢化で人手不足なのは雇用について(働く側には)かえってポジティブ要因だと述べた。しかし人口減少は、同時にモノやサービスを買ってくれる顧客の減少を意味する。そこで大企業に限らず、現在以上に海外の市場で売る必要がある。

これは新しい考えではなく、そもそも日本は貿易大国で輸出入が盛んである。トヨタのような製造業が海外へ進出して製品を売ったことで、経済大国になったのだ。日本の2022年の製品輸出額は世界第5位(出典・WTO World Trade Statistical Review 2023)である。

今後は国内市場の縮小が予想されるため、今までは国内ビジネスだけでもやっていけた企業もグローバルに展開する必要が出てくる。

グローバルに働く

「若者の海外留学離れ」のニュースを見たことがあるかもしれない。確かに、例えば日本人の海外留学の半数を占めるアメリカ留学におけるコロナ前2018年までのデータによれば、日本人留学生の数は年々減少傾向にある。

アメリカ留学生数のアジア上位6カ国の推移はこのようになっている。1つめのグラフでは、人口の多い中国とインドが発展著しいことがわかる。2つ目のグラフでは中国・インドを除いた4カ国を表し、日本からの留学生が減少していることがわかる。

しかし、実は海外で働く人は年々増えている。すでにグローバルに展開する企業が増えているからだろう。

今後この傾向は変わらないと想定すると、今からどのようなチャンスがあるか。

例えば、会社員なら国際関連の部署への異動を今から希望する。海外とのやりとりに慣れておけば社会のグローバル化にも対応しやすい。

海外赴任に手を挙げるのもよい。社内異動なら比較的ハードルは低いだろう。

若い人なら海外の大学へ行き、そのまま海外で働く。海外の大学は一般的に日本より授業料が高いため難しい場合はワーキングホリデーという制度を利用する。

ワーキングホリデーとは、青年が休暇を楽しみながら、その間の滞在資金を補うために一定の就労をすることを認める特別な制度である。オーストラリア・ニュージーランド・カナダなどが有名だが、日本と二国間協定を結んでいる国に限られる。「青年」の年齢制限(国によって違う)があるので若い人に限られるが、大学や労働ビザをとるよりもハードルは低い。

もちろん、ただやみくもに海外へ行くことを勧めるわけではない。自分の将来のキャリアにプラスになるルートをよく考え、事前に周到な準備がいるのは言うまでもない。

国際的なバックグラウンドがない人にはハードルが高いかもしれないが、日本で直接海外勤務の求人に応募して転職する方法もある。求人の仕事内容と本人の職務経験にもよるが、大手の転職エージェントはたいてい日本国内だけでなく海外勤務の求人を持っているので、登録して紹介を受けることができればチャンスは広がる。

日本に居住しながら、海外から仕事を受ける方法もある。Upworkの知名度が一番高いが、アメリカには他にもWebflow Experts(ウェブデザイン)、 MarketerHire(デジタルマーケティング)、 We Work Remotely(リモートワーク特化)等さまざまなワールドワイドな仕事紹介のプラットフォームがある。リモートのため仕事内容は限られるが、さまざまな求人があり、のぞいてみるだけでも興味深い。

求める職種・雇用形態(フルタイム・パートタイム・フリーランス)やレベル(登録するのに選抜がある、高スキル人材専用サイトもあり)によりプラットフォームを選び、登録して応募したり声がかかるのを待ったりして仕事を得ることができる。

これらには仕事の専門性とともに、ITリテラシーと国際語である英語力が必要だ。

先進国なのに、出稼ぎ?

日本人が出稼ぎするの?アウトソース「先」になるの?とショックを受けるかもしれない。しかし現在の日本の状況を考えると、それを普通のこととして受け入れる時代が来るだろう。日本人が今、海外で働くあるいは海外でモノ・サービスを売ることには2つのメリットがあるからだ。

1つめは、諸外国に比べ、日本の賃金が安いことである。

何度もニュースや雑誌で取り上げられたG7各国の実質賃金の推移のグラフにショックを受けた人も多いのではないか。1991年から2020年の約30年で、アメリカ・イギリスの賃金は約1.5倍、カナダ・ドイツ・フランスは1.3〜1.4倍に増えているなか、日本は30年ほぼ横ばいで推移している。

先進国だけではない。先日、ここ10年で外国人技能実習生の賃金が4割増しになったという報道があった。新興国でも賃金が上昇しているため以前のままでは来日してもらえず、賃金が1.4倍になっているらしい。

【参考】「外国人材、もう安く雇えない 実習生賃金10年で4割増」(日経新聞 2023/10/22)

NHKクローズアップ現代「安いニッポンから海外出稼ぎへ」取材チームの記事では、海外で稼いでいる日本人へのインタビューで、現地での収入の高さを述べている人が多い。

【参考】「日本人の若者が海外に出稼ぎへ 増加の裏側にある労働問題」(NHKみんなでプラス 2023/02/01)

2つめは、円安だ。

2023年10月3日、対ドルの円相場が1ドル=150円台前半になった。150円台を付けるのは、2022年10月21日以来である。なお、3年前の2020年10月同時期は、1ドル=104円~106円のレベルであった。米ドルで報酬を受け取るメリットは大きい。

先進国からだけでなく、発展途上国から仕事を受けるチャンスもある。前述したUpworkというプラットフォームを見ると、例えば、中国から日本語ネイティブへの仕事の募集がある。中国は場合によって発展途上国と経済成長の誇示とを使い分けているので発展途上国の代表的な例ではないかもしれないが、今後は発展著しい新興国から仕事を受けるケースもあるだろう。

時間は、まだある

Windows’95が発売された1995年の第三次産業革命(いつを第三次産業革命とするかは諸説ある)開始から、私たちはハイスピードで技術が進む真っただ中にいる。

ChatGPT登場そのものか、あるいはもっと大きな発明が控えていて、それが次の新技術による大きな転換の始まりだとするならば、新しい技術が一般に浸透するまで、時間はある。

というのも、技術革新の後、一般に普及するまでには時間がかかるからだ。
例えば、2008年にiPhoneが発表されてから、スマートフォンの世帯保有率が8割を超えるまでに約10年、9割を超えるのにさらに3年かかっている。

現在のほうが昔よりも技術の進歩のスピードが速いとしてもある程度の時間はあるはずだ。

実際、ChatGPTの使用に対する企業の対応は現時点では積極的に取り入れる企業と禁止する企業で分かれており、すぐに全体に普及しているとは言い難い。

日本の組織は72%が、職場でのChatGPTやその他の生成AIアプリケーションの禁止を実施、あるいは禁止を検討している。

(引用)日本企業の72%が「生成AIの利用禁止」という衝撃 ChatGPTに「積極的な企業・否定的な企業」の決定差 東洋経済 2023/10/01)

まだ時間はある。準備に入ろう。

第三次産業革命で覇権をとったのはアメリカ

海外に関係する部署へ異動しよう、海外で働こう、海外から仕事をうけよう、という話をした。筆者とて日本が先進国のなかで取り残されているような今の状況を良しとしているわけではない。

日本の製造業が世界でリードをとっていたのは昔で、第3次産業革命と呼ばれる情報・通信革命、具体的にはコンピューター・インターネット登場の後、世界の産業界で覇権をとったのはアメリカだった。

会社ではWindows OSのパソコンで仕事をし、ブラウザはGoogle Chromeを使い、Googleで検索し、Amazonで買い物し、SNSはFacebook・Instagram・X(旧twitter)を使っていないだろうか?AppleのiPhoneを愛用していないだろうか?

ビッグテック、日本ではGAFAMと呼ばれるGoogle、Amazon、Facebook(現Meta)、Apple、Microsoft、世界的に話題になったChatGPTを作ったのもOpenAIというアメリカ企業だ。

アメリカが第3次産業革命の勝者であることは明らかで、日本には世界的なテック企業はまだなく、自動車ではトヨタ・日産・ホンダ、電気機器ではソニー・日立・パナソニックなど製造業で世界を席巻した企業がたくさんあるのとは対照的である。

次の第4次産業革命ではどの国がリードするか。ドイツは2011年に政府主導で「インダストリー4.0構想」を公表し、2013年から産官学連携で次の覇者になるべく取り組んでいる。

日本政府のグローバル対応と起業支援策

日本政府もグローバルなテック企業が日本にまだないことに危機感を持っている。そこで文部科学省は学校教育での英語・IT強化を、経済産業省は起業家支援を行っている。

文部科学省は2020年4月からプログラミングを小学校4年生から必須科目にし、英語を小学校2年生・4年生の外国語活動(慣れ親しむ)、小学校5年生・6年生の正式な教科にした。

経済産業省は2014年に日本ベンチャー大賞を創設し(2022年に日本スタートアップ大賞に名称変更)、若者などのロールモデルとなるようなインパクトのある新事業を展開するスタートアップを毎年表彰している。

例えば、2015年にグローバル展開賞・2017年に日本ベンチャー大賞を受賞している大手フリマアプリのメルカリ。2017年11月、本人情報の登録・売上金を銀行口座に振り込む申請期限の短縮・売上金を1円1ポイントに換算にルール改定したことが話題になった。

メルカリは、当時、久しぶりに日本で生まれた「ユニコーン」(企業価値が10億ドル以上の未上場企業をさす。メルカリは当時未上場、2018年に東京証券取引所に上場し現在は最上位のプライム市場に属する)。これには規制重視の金融庁とベンチャー育成に期待をかける経済産業省の攻防があったという。

【参考】「メルカリ売上金はポイント 金融庁・経産省と攻防の末」(日本経済新聞 2017/11/28)

また、2018年にJ-startupという経済産業省が推進するスタートアップ企業の育成支援プログラムを開始して起業を後押ししている。

【参考】「メルカリに続け!ユニコーン候補92社の名前 官民プロジェクト「J-Startup」が目指すこと」(東洋経済 2018/06/21)

グローバル化に対応する

筆者は海外で働いたり海外から仕事を受けたりすることを勧めたが、もちろん日本からビッグテック企業が出てアウトソースする側になってほしいと思っている。とはいえ、今現在生き残るためには政府の支援の効果を待つ時間はなく、個人でグローバル化に対応するしかない。

例えば、日本人が苦手とする英語について。

20年以上前になるが、トルコのイスタンブールを旅行した時、突然日本語で話しかけられた。6歳と10歳くらいの男の子の兄弟が「3マイ1000エン、3マイ1000エン」と言いながら小さな敷物を売りに来たのである。1000円なのは、紙幣でないと銀行で両替できないからだろう。彼らは日本語が堪能なわけでもないし書けるわけでもない。仕事に必要な日本語を話せるだけのこと。

「英語が話せない」と不安を口にする人に限って、世界情勢や政治について語ったり、日常でのこなれた表現をマスターしたりしようとする。それでは範囲が膨大すぎる。

イスタンブールの物売りの子供たちは極端な例かもしれない。ではコンビニで働く外国人はどうか。彼らはレジだけでなく荷物の発送・受取・公共料金の支払や観劇チケットの発行・品物の補充など多岐にわたる仕事をしている。日本語が、彼らの母国で義務教育でないのは言うまでもない。

とりあえず仕事に必要な英語から取りかかればいい。仕事にもよるものの、覚えるべき表現は思ったより少ないことに気づくだろう。仕事であれば自分の意見があるから(英語では特にこれが大切)何とかなる。全て自力でやる必要もない。それこそAIを利用すればよいのだ。

失業はテクノロジーの進歩がなくても起こる

バブル崩壊後、経営がうまくいっていなかった日産にカルロス・ゴーン氏が来て大鉈を振るい、ゴーンショックと呼ばれたことを覚えている人もいるかもしれない。日本国内で東京の村山工場、日産車体京都工場、愛知機械港工場、久里浜工場九州ユニット工場の4つの工場が閉鎖され、従業員は他の工場へ移るか退職するかをせまられた。

最近では、宅配便大手のヤマト運輸が、小型荷物の配達を委託している個人事業主約3万人との契約を2024年度末までにすべて終了する。経営合理化のため、ヤマトは日本郵政との提携を発表しており、今後は日本郵便に荷物の配達を委託する。

【参考】「ヤマト運輸、委託の配達員3万人と契約終了へ 24年度末までに」(朝日新聞 2023/09/25)

テクノロジーの進歩以外の理由でも、経営判断で失業は起こる。突然という意味ではこちらのほうのダメージが大きい。

ChatGPTによる世界の動揺は今後の大きな変化の予兆を感じさせる。個人でできる準備を始めよう。

(参考「人類の歴史とAIの未来」バイロン・リース・「人工知能と経済の未来」井上智洋・「ロボットの脅威 人の仕事がなくなる日」マーティン・フォード・「ロボットと生きる社会 法はAIとどう付き合う?」角田美穂子 工藤俊亮・「テクノロジーが雇用の75%を奪う」マーティン・フォード ・「『AIで仕事がなくなる論』のウソこの先15年の現実的な雇用シフト」海老原嗣生・「食える仕事食えない仕事 10年後にAI、ロボット化で変わる職のカタチ」渡邉正裕)

東福まりこ 転職カウンセラー
自身のアドバイスで友人が転職に成功したことをきっかけに、転職カウンセラーとしてキャリアの見直しワークショップを開始。過去の転職経験や海外勤務経験をベースにアドバイスを提供中(国内大手1社・外資系2社、ドイツ赴任1年)。現在はマンツーマン形式でキャリア相談を行う。「転職」ではなく定期的な「転職活動」で市場価値を知るべき、が持論。飼いネコに構ってもらいながら働く日常を送る。

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2022年12月20日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。