「努力できるかどうか」も遺伝するということが明らかになりつつある世知辛い時代である。「運は遺伝する 行動遺伝学が教える「成功法則」 (NHK出版新書)」の筆者らがタブー視されがちだという「行動遺伝学」が明らかにしたのは知能、能力、性格、運まで遺伝の割合が大きいということらしい。
人間の性向が遺伝によってかなりの割合が決定されるというのは、なんとなく知っていながら「言ってはいけない」ことになっている。しかも、その思っている以上に遺伝の面が大きいということが、研究によって裏付けられてきた。なんとも切ない分析であり、学校教育や教育ビジネス関係者からすると不穏な結果であろう。
具体的な算出方法は本書をめくってみてほしいが、個人差は、遺伝と共有環境と非共有環境で説明できるという。そして、家庭環境影響が含まれる共有環境の影響は、思ったより小さいということだ。
行動遺伝学では、一卵性双生児と二卵性双生児の相関係数のデータから、遺伝と環境の割合を出すことができる。個人差を遺伝、共有環境、非共有環境で説明することになる。
共有環境というのは、遺伝以外で家族を類似させている要因である。これに対して、非共有環境は家族を異ならせている要因である。
もちろんここで言う環境は何か具体的な環境のことを言っているのではなく、あくまでも統計的に導出されるものだ。
その分析で意外な結果が得られている。
われわれ日本人は特に学業成績と仮定の経済環境の相関が強いと考えているがそのような相関は実に弱いということである。
ただし、知能が高いカップル同士の子供でも、確率的には平均に回帰するので親の知能と同程度になる可能性は低くなるという。
つまり誰でも勉強を頑張れば学力が向上するというのは間違いということにもなる。
もともと共有環境の影響は大きくないのに、そのうちの半分くらいは、じつは遺伝で説明できるかもしれない。日本でも親の収入が子どもの人生に決定的な影響を与えるとされ、“親ガチャ”などといわれますが、その影響がかなり限定的だというのは、貧しい家に生まれた子どもにとっては勇気づけられる結果ですね。
親ガチャの影響というのは巷間で言われるほど大きくない。人生は切り開けるということである。
“親ガチャ”を言い訳にできないということに勇気づけられるかどうかは、読者次第であろう。
本書で語られるのは残酷な「成功法則」でもあるが、希望の書としたい。
運は遺伝する 行動遺伝学が教える「成功法則」 (NHK出版新書)