大統領選に波紋:コロラド州の最高裁判決

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22日の拙稿「愛好紙『産経』のトランプ報道を糺す」について、知人から「米国の混沌が原因か、それを正しく報じない日本のマスコミのせいか、それとも自分の不勉強のためか、もうひとつ理解できなかった」とおりを受けた。

偏に筆者のせいなので、ここで改めてコロラド判決に関係するトランプ訴訟と憲法修正14条3項について整理した。

トランプの起訴案件と司法省による起訴

トランプは目下、連邦と4つの州で刑事訴訟91件と民事訴訟6件の被告になっている。それらは21年1月6日の議事堂襲撃を中心とする「選挙介入事件」(以下、「J6事件」)、「ジョージア州選挙妨害事件」、「連邦機密文書事件」、そして「口止め料事件」という4つの訴訟にまとめられ、コロラド判決は「J6事件」に関係している。

バイデン政権のメリック・ガーランド司法長官は22年11月、ジャック・スミスを特別検察官に任命して、「権力移譲を不法に妨害した人物や団体の有無」(すなわち「J6事件」)に関する司法省の捜査を監督し、トランプの不正疑惑に関する捜査を引き継ぐことを命じた。

トランプは「J6事件」で21年1月、下院によって反乱扇動の罪で弾劾されたものの、2月の上院では有罪57対無罪43で無罪となった(弾劾には3分の2の賛成が必要)。その後にペロシ下院議長が設置した下院特別委員会が、22年12月(スミス任命のひと月前)の最終報告書で「(事件の)中心的原因はトランプ前大統領」と結論し、トランプを起訴するよう司法省に勧告した。

連邦大陪審は23年8月1日、スミスから提出された起訴状を評価した結果、トランプの起訴をコロンビア特別区連邦地方裁判所に提起し、同裁判所はターニャ・チュトカン判事を担当に据えた。彼女は14年にオバマ大統領に任命され、21年11月に下院特別委員会への記録公開を止めようとしたトランプの動議を拒否したことや「J6事件」の被告2人に検察の求刑より重い刑を言い渡した人物だ。

スミスの起訴状に拠ればトランプは「3つの陰謀」を行った。一つ目は「大統領選挙の結果を収集、集計、認定する合法的な連邦政府の機能を無効にする」陰謀、二つ目は「大統領選挙の結果が集計され認定される1月6日の議会手続きを不正に妨害し妨害する」陰謀(いわゆる議事堂襲撃)、三つ目は「投票し、自分の票が数えられる権利に反対する」陰謀だ(以上、8月1日「Lawfare」)。

コロラド判決と憲法修正14条3項

コロラド州地方裁判所は州最高裁判決に先立ち、トランプは「反乱に関与した」ものの、大統領が修正14条3項にいう「公職(office)」にあたるかどうかに関する疑義を理由に、州の予備選と本選挙の投票から除外することはできないと認定していた。が、州最高裁判所は19日、「3項には大統領職と大統領として宣誓した人物が含まれる」として下級審を覆す判決を下した。

そこで憲法修正14条3項の条文に当たってみると・・

Amendment XIV Section 3.

No person shall be a Senator or Representative in Congress, or elector of President and Vice President, or hold any office, civil or military, under the United States, or under any state, who, having previously taken an oath, as a member of Congress, or as an officer of the United States, or as a member of any state legislature, or as an executive or judicial officer of any state, to support the Constitution of the United States, shall have engaged in insurrection or rebellion against the same, or given aid or comfort to the enemies thereof. But Congress may by a vote of two-thirds of each House, remove such disability.

修正第14条 3項(拙訳)

合衆国議会議員、国の役人、州議会議員、または州の行政及び司法の役人として合衆国憲法を支持する宣誓を行ったにも関わらず、合衆国憲法に対する反乱もしくは謀反に加わり、または合衆国憲法の敵に援助や慰撫を与えた者は、何人も、議会の上院議員もしくは下院議員、または大統領および副大統領の選挙人、または何かの公職、または合衆国もしくは各州の文民もしくは軍事の役職に就くことができない。しかし、合衆国議会は各議院の3分の2の投票によって、このような障害を除去できる。

拙い翻訳で恐縮だがこれを読む限り、「大統領」の単語はあるが、わざわざ「選挙人(elector)」の修飾語として使われているので、列挙されている議員や公職者(office:役人や軍人)とは違い、大統領は除外対象に入らないのではないか、とコロラド下級審は疑義を懐いた。普通に読めばそう思うが、法律を司る者や法学者は条文をどう解釈するかが仕事だから、「普通」が通じるとは限らない。

というのも、コロラド判決に関してメディアに登場する議員や学者や識者の賛成論にも反対論にも、挙って否定している共和党予備選のライバル候補らも、条文の上記のことに明確に触れている者は多くないからだ。が、大概トランプを擁護するハーバード・ロー・スクール名誉教授アラン・ダーショビッツは正面からこう述べる(「Newsmax」)。

ばかげている。・・(コロラド判決は)極端な解釈だ。条項は大統領に適用されない。上院議員、下院議員、選挙人はそうしてはならないと書かれており、就任宣誓は大統領の就任宣誓ではなく、上院議員の宣誓だ。つまり憲法の条文ですら、それが大統領に適用されるものではない。そして憲法修正自体は、単に南北戦争で戦った人々が特定の役職に立候補することを阻止することを目的としたものだ。

修正14条3項が南北戦争で負けた南軍の役人を選挙に出させないようにするための法律で、南北戦争以降150年間一度も適用されたことがないのに、民主党が選んだコロラドの判事がこれを引っ張り出して来てこの判決を出したというのは、トランプを擁護する多くの者がするコメントだ。が、筆者は成立経緯がどうであろうと、法律は文言が全てと考えるから南北戦争云々は重要視しない。

それよりもコロラド裁判所が下級審でも上級審でも「トランプは反乱に関与した」とあっさり断じていることの方が腑に落ちない。何故なら、これを訴因の一つとする裁判をこれからする訳だからだ。ダーショビッツも「トランプ前大統領は法的に定義されていない反乱への参加に関して起訴も有罪判決も受けていない」と指摘する(前掲記事)。

トランプ陣営と司法サイドの攻防

この「反乱」に関して、トランプ陣営も「大統領に明示的に適用されない法令は、その適用が大統領の法規と矛盾する可能性を伴う場合には、大統領に適用されないと解釈されなければならない」との「大統領の免責特権」を地方裁判所に提起した。が、チュトカン判事は12月1日にこれを却下した。

トランプ陣営がこれをすぐさまD.C.控訴裁判所に控訴したが、スミスは審議が長引くと予想される控訴裁判所を飛び越えて、連邦最高裁に「免責特権」の即時検討を求めるという奇策に出た(トランプ陣営はこれを「Hail Mary(最後の大博打)」だと批判した)。が、連邦最高裁は「即時」(22日)、現時点ではスミスの要請する免責の検討を行わないとした。

スミスも「ジョージア州選挙妨害事件」の「RICO訴訟」を扱う同州フルトン郡地方検事ファニ・ウィリスも、10数州の予備選が集中する来年3月5日の「スーパーチューズデー」の前に公判を始めて、トランプ陣営を混乱させようと画策する。スミスがトランプ以外の「共謀者」(起訴状では6人)を一人も起訴していないのも裁判を早く進めるためだ。が、この目論見は、目下は最高裁に挫かれたようだ。

コロラド最高裁も、トランプ陣営の要請によって連邦最高裁による審査が行われことを予定し、24年1月4日(コロラド州が大統領予備選挙の投票を認証する日の前日)まで判決を保留している。が、トランプ擁護派は連邦最高裁が覆すと楽観視するが、本稿執筆時点(26日午前)ではまだ最高裁介入はない。