20日の「産経」(電子版)は「トランプ氏の出馬認めず コロラド州最高裁 陣営『完全な誤り』」との見出しで大内清米国特派員の署名記事を載せた。「米メディアが一斉に伝えた」「報道によると」とあるので、本稿では反トランプの「CNN」と親トランプの「Newsmax」という左右のメディアと読み比べて、「産経」記事の欠陥箇所を糺したい。
筆者が考える「産経」記事の欠陥箇所は、先ず「見出し」。筆者は一体何が起こったかと思わずクリックした。すると本文に「同州での予備選出馬を禁じる決定を下した」と書いてある。ならば「トランプ氏の州予備選出馬認めず コロラド州最高裁」とすべきだし、「陣営『完全な誤り』」も、「(トランプ陣営は)連邦最高裁へ上訴すると説明した」とあるから、「陣営は連邦最高裁上訴へ」とすれば見出しで中身の見当がつく。羊頭狗肉の見出しでアクセスを誘うのは邪道だ。
次に「産経」が「修正14条が理由で大統領選の出馬資格が否定されたケースは初めて」「同様の訴訟は複数の州で起こされ、多くは訴えが退けられている」としている件を、「CNN」はミシガン州を例示し、「トランプはいくつかの重要な州で修正14条に対する異議を打破している」とし、更に「(反トランプ派は)トランプが11月に勝利しても法廷で闘い続けると誓っている」ことを付記している。
更に「産経」が「政治倫理問題などに取り組む非営利団体」とした原告を、「Newsmax」は「ソロスから資金提供を受けた左翼団体」と書き、「CNN」は「共和党と無所属の有権者グループがリベラル派の政府監視団体『ワシントンの責任と倫理を考える市民の会』と連携して訴訟を起こした」と詳説する。「非営利団体」が「リベラル派左翼団体」であり、更に共和党の反トランプ派も係わっているのは重要な情報だ。
このほかの「産経」が触れていない重要事項を拾うと、控訴を可能にするため判決が来年1月4日まで保留されていること、トランプ陣営は連邦最高裁が迅速に判決を下すだろうと楽観していること、共和党のライバル候補すら挙ってこの判決を批判し、最も戦闘的なヴィヴェク・ラマスワミ候補は、この判決が「民主主義に対する攻撃」で「選挙妨害」だと「X」にポストしたこと、民主党知事に任命された判事7人による判決にも関わらず4対3の僅差だったことなどがある。
「CNN」はさらに踏み込んで、異議を唱えた判事3人のひとりB・ボートライト首席判事が、「暴動関連の有罪判決がない限り、修正14条第3条に基づく候補者の資格剥奪要請は、コロラド州選挙法に基づく適切な訴訟原因ではないと私は判断する」と述べたことも報じている(太字は筆者)。
この少数意見は極めて真っ当だと思う。昨年8月の安倍暗殺事件と今般の政治資金不記載問題で、官憲のリークを連日センセーショナルに報じる各種メディアとそれに激しく反応する世論に阿諛追従して、拙速に一定の閣僚らを更迭した岸田総理には、この判事の「有罪判決がない限り・・」との一節がどう響くだろうか。
大内記事の本件の「事実」に関する欠陥箇所は概ね以上だ。が、この記者の主観を交えた次の一文は、左派のメインストリームメディアがトランプ発言を伝える時の常套句をそのまま翻訳しているに過ぎず、左巻メディアがそう伝えているという事実を報じる記事なら良いとしても、この判決を伝える記事には全くの蛇足だ。
トランプ氏は2020年の前回選での落選後、「大規模な不正があった」と根拠のない主張を展開。これを信じた支持者たちが21年1月、民主党のバイデン候補(当時)の当選確定手続きを妨害するため、首都ワシントンの連邦議会議事堂を襲撃する事件を起こした。
何故なら、トランプが主張する「不正があった」が本当に「根拠がない」のかどうか、議事堂に行進した者の一部が乱入したのは事実だが、それが「トランプの主張を信じた」からか、それとも自ら得た情報に基づくものだったのか、そして乱入者が「支持者たち」だけだったのか、それとも反トランプ派や官憲の囮が混じっていたのかなどを、新聞は、今後の裁判で全容が明らかになるまでは一方的に報じるべきではないからだ。悪名高い「共同通信」を真似る必要はないし、このスペースを使えば前述した「事実」の抜けを幾つか書ける。
「産経」の米国特派員といえば、反トランプ論調の多かった黒瀬悦成が編集長兼外信部次長に栄転し直に欧州に出たと思ったら、後継の大内清までがこの有様では大先輩のワシントン駐在編集特別委員兼論説委員古森義久と同様に、長年産経一筋の筆者も泣けてくる。どうせ現地メディアを引き写すならポイントを外すな、といいたい。
最後に、20年大統領選コロラド州のバイデンとトランプの得票数を州都デンバーと郊外部に分けて以下に記しておく。数字を見ると、都市部でトランプが如何に不人気か知れる。前述のラマスワミは「X」にこうも書いている。
エスタブリッシュメントは党派を超えてトランプ紙を大統領選挙に出馬させないためにあらゆる手を尽くしたが、今度はトランプ紙を再び大統領にさせないために、憲法修正第14条という新たな戦術を展開しようとしている。
都市部のエスタブリッシュメントに反トランプ派が多いのは全米ほぼ共通の傾向で、今後、トランプの裁判が予定されるニューヨーク市やワシントンD.C.ではとりわけ顕著だ。しかも陪審員裁判となれば、トランプが裁判の管轄地に拘るのも宜なるかな。