アルゼンチン・キチロフ元経済相のミスジャッジが国民負担の税金に

ミレイ大統領とキチロフ元経済相(右)

160億ドルの賠償金

ハビエル・ミレイ新大統領の登場でそれまで20年余りアルゼンチン経済を後退させた正義党のキルチネール派の責任を暴く作業が始まっている。そのひとつが2012年4月に起きた出来事だ。当時の経済相アクセル・キチロフ氏と大統領で感情で政治判断をするクリスチーナ・フェルナンデス・キルチネール氏が起こした事件だ。

この二人は、当時スペインの石油と天然ガス企業レプソル(REPSOL)が経営していたアルゼンチンの石油会社YPFに対し投資が不十分で生産量が僅かだという理由から政府が乗っ取り国営化させた。それが11年後にもたらしたものは、先月米国ニューヨークの法廷で160億ドルの賠償金の支払いという判決を招くことになったことである。

無謀な決定をした元経済相キチロフ氏の名前を取ってキチロフ税の設置

現在のアルゼンチンにはお金がない。だから12月に就任したミレイ大統領はテレビのインタビューに答えて次のようにのべたことが各紙で取り上げられた。

すべてのアルゼンチンの人々はこのような無謀なことをしたことを思い出して欲しい。イデオロギーの観点において間違ったことをしたひとり(キチロフ経済相)のせいで毎日一定のドルを積み立てて行かねばならない。4600万人のアルゼンチン人に損害をもたらすことになったのである。

それで新しい税金を設けねばならない。それをキチロフ税と呼ぶようになる。一人のアマチュアの不備で、払わねばならない。彼がブエノスアイレス大学の博士のタイトルを持っていても財政と市場がどのように機能するのか知らなかったようだ。

12月26日付「インフォバエ」より引用)

キルチネール派の前大統領アルベルト・フェルナデス氏の側近の一人ギリェルモ・ニールセン氏でさえも2019年7月の時点でキチロフ元経済相のことを批判して「経済相というのは経済を知っているだけでなく、資本市場の法的機能について知っておくべきだ。アルゼンチンの法律とこの地球での中心市場であるウォールストリートの事も同様だ。好きなようにやってよいのではない。法律で許されることをやるべきだ」と語った。

アルベルト・フェルナデス前大統領もキチロフ元経済相と同じ派閥ということで、前大統領の側近であるから同元相の批判はできるだけ控えるべきであるが、にも拘らず遠慮なく彼の無知さ加減を批判したのである。それだけキチロフ氏が経済相だった時の企業を乗っ取るという無謀さはひどすぎるという批判である。乗っ取りをやった時、キチロフ氏は国民には負担は一切かからないと指摘していた。筆者もこの弁は良く記憶している。

ニールセン氏がなぜウォールストリートのことを指摘したかというと、YPFはウォールストリートでも上場していたからである。即ち、米国の法律でも不法なこの乗っ取りについて法廷に提訴できるということなのである。

YPFの株主

レプソルは1999年にYPFを買収し、買収時から2倍の3万7000人の従業員を抱え、30か国以上と取引するまでに成長させていた。ラテンアメリカで最大のエネルギー分野の企業として成長させていた。

2007年にはアルゼンチンのコングロマリットピーターセングループに15%の株を取得させた。そしてレプソルは57%の過半数の株を有し、残りの株を複数の民間企業が購入していた。(Wikipediaより引用)。

ところが、90年代に入ってアルゼンチン政府はエネルギー産業を国家の運営で担うという方向に進んでいた。そこで注目したのがYPFの存在であった。政府はそれを強引に国営化させるべく乗っ取りを行った。そしてレプソルに対し僅か37億ドルの賠償を約束。しかし、YPFには少数派の株主もいた。彼らは、レプソルに対して振舞った政府の待遇と同等のもの政府に要求したが、それが叶えられなかった。それに注目したのがファウンド企業バーフォード・キャピタル(Burford Capital)である。同企業はこの少数派の株主から株を50億ドルで購入し、訴訟権も手に入れた。

それでもって、ニューヨークの法廷にアルゼンチン政府の不当な待遇を訴えたのである。何しろ上述したように、YPFはウォールストリートでも株を公開していたからである。

ニューヨーク法廷での判決で160億ドルの賠償金の支払いが命じれた

その判決が下されて、アルゼンチン政府はバーフォード・キャピタルに対し160億ドルという高額の賠償金を払わねばならなくなった。(12月27日付「インフォバエ」より引用)。

勿論、この不祥事を起こしたのはクリスチーナ・フェルナデス・キルチネール政権下であるが、この賠償をせねばならないのはアルゼンチン現政府である以上、ミレイ大統領政府が賠償せねばならない。現政権にはお金が不足しているということが理由で、「キチロフ税」を設けて、国民からこの税金を徴収する意向のあることをミレイ大統領は明らかにしたのである。

これはキチロフ元経済相とクリスチーナ・フェルナデス・キルチネール元大統領の責任である。その責任を国民が素直に受け入れて払う意向など無いことは明白である。政府は実際には賠償金はどこから工面するはず。1月10日に最初の支払いが義務づけられている。

しかし、このような形で税金とする意向を示したのもキチロフ氏はこれからキルチネール派のリーダーとなる可能性があるからである。それを今から彼の芽を摘んでおく意味でもキチロフ税と呼ぶことに現政府は決めたようだ。キチロフ氏は現在ブエノスアイレス州の州知事である。