欧州ではクリスマスが過ぎると、あとは大晦日にシャンパンを飲み、踊って楽しんだ後、2024年零時を待つ。そして「待っていました」とばかり花火が夜空に一斉に打ち上げられ、その夜景を見ながら新年を迎える。過ぎ去る1年を振り返り、新しい年を迎えるといった哲学的で厳粛な雰囲気はない。近くの神社にお参りして新しい年を迎える日本の大晦日・新年の風習が時には懐かしくなる。
若い時は零時の花火を見上げるのも楽しかったが、最近は花火の音が耳に突き刺さってくるので苦痛になってきた。だから、数回の花火を見たら、「今年も花火を見た」と自分を納得させ、窓を閉じて自分の部屋に戻る。
大晦日の花火は慣例だが、動物たちにとっては苦痛の時だ。花火の音が大きく響いて動物たちには怖いのだ。大きな犬も怖くて部屋の隅にいって身動きせずジッと耐えている。猫も同様だ。飼い主がシルベスターのイベントで家を留守にする場合、独りで飼い主が戻ってくるのを待っている。動物愛護協会は大晦日になると、「動物の近くでは花火を控えてください」と懸命にアピールする。
戦争が続くウクライナに住むカラスたちは砲弾が近くで炸裂しても、もはや飛び立たなくなった、ということを聞いた。そのニュースを初めて聞いた時、キーウのカラスたちの生命力、適応力に脱帽したものだ。欧州の社会で生きている動物はそうはいかない。最近の花火は音が煩いし、その爆発力はスゴイ。大晦日、毎年、花火の打ち上げによる事故で手などを負傷するケースが報告される。
「2024年は世界的な激動の年」といった声が予言者だけではなく、政治学者、経済学者からも聞かれる。日本はGDP(国内総生産)でドイツに抜かれて第4位に、1人当たりのGDPではイタリアに抜かれ主要7カ国首脳会議(G7)の中で最下位に落ちる、という専門家の予測を読んだばかりだ。欧州で40年余り過ごしてきた当方は驚くというより、ショックを受けた。
日本の経済が中国に抜かれた時、人口大国の中国に抜かれるのは仕方がない、と受け取って納得してきたが、現在リセッション(景気後退)下にあるドイツに抜かれ第4位に落ちるという予測はやはりショックだ。「こんな日本に誰がした」といって嘆いても仕方がないが、日の出の勢いで「米国を抜いて世界一になるか」といわれた時代が遠い昔の物語のように感じ出してきた。
世界での日本の外交プレゼンスは脆弱だが、経済分野ではまだ世界第3位だ、といった誇りはあった。その誇りももはや時間の問題となってきたのだ。もちろん、一国の国力は経済力だけではない。軍事力だけでもない。経済・政治、文化、軍事などを合わせた総合力だ。毎年公表される「世界で一番幸せな国」は米国ではないし、中国でもない。フィンランドやデンマークの北欧諸国が常連だ。
日本国民は今、どうしたら閉塞感を突破し、再び活気ある社会、国づくりが出来るか真剣に考える時ではないか。ひょっとしたら、海外住まいの当方が知らないだけで既に多くの提案が出てきているのかもしれない。とにかく、日本社会は新しく生まれ変わる気持ちで少子化問題、社会福祉問題などの難問に対応してほしい。
日本国民は世界にもまれなほど優秀な民族だ、と海外に住んでいると実感する。メイド・イン・ジャパンは欧州でメイド・イン・ジャーマニーに匹敵する高品質のトレードマークだ。当方は日本民族を尊敬する多くの外国人を目撃してきた。日本人は自信をもってほしい。
国の舵取りは政治家の役割だ。政治家は国の伝統を相続しながら、新しい時代の要請に対応できる柔軟性をもち、党派性、個人的利害を乗り越えて利他的な生き方を見せてほしい。それを支えるパワーは精神力であり、宗教性だ。心と体の統合がなければ、試練がくれば直ぐに倒れてしまう。
終戦後、国民経済の復興を掲げて日本国民は大奮闘し、成果はあった。その過去の財産を相続しながら、第2次の活性化が求められているのではないか。主権国家として経済力だけではなく、国防力のアップも不可欠だ。課題は多い。2024年は激動の年となるだけに、チャンスの到来ともいえる。日本が世界に多くの幸せを輸出できる国として再び活性化することを願う。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年1月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。