国営軍事通信社をつくるべき

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あけましておめでとうございます。

年明けから震災や航空機事故、NPO法人フローレンスと行政の癒着が問題となるなどで、波乱の幕開けとなりましたが、平穏な一年になるといいですね。もっとも我が国は問題山積で、政治も一波乱ありそうです。

さて、この数年ずっと思っていたのですが、公的な軍事通信社あるいは、そのような組織を行政が作るべきだと考えています。

そもそも我が国では軍事の専門媒体はほぼ存在しません。専門誌と呼ばれているものは大抵がマニア向けの媒体です。ですからマニアの嗜好に沿った記事なります。例えば航空雑誌でもヘリ人気がないので取り上げられづらい、調達や運用に関する記事も少ない。当然情報に偏りがでてきます。

そして防衛省や自衛隊には取材の便宜を図ってもらうために、好意的な記事しか載らない場合も少なくなく、問題点を指摘する視点の記事は少ない。そのマニア媒体ですら休刊や廃刊が続いています。海外取材をサポートする資金敵な余裕もなく、海外取材経験の多いベテランはリタイヤしています。昨年ロンドンで開催されたDSEIでも日本から専門記者はぼくだけだったようです。

無論海外の媒体から情報は取れますが、それは二次情報であり、また日本人の視点からの記事ではありません。

また海外の専門誌に寄稿している記者も殆どいません。それは日本の軍事情報が海外に伝わっていないということです。

軍事の物書きの世界では新人が減っているし彼らが、海外取材をする機会は殆どないのが実態です。例えば一回の取材で60万円かかるとすると、それを回収して、利益をだすためにはどれだけの記事を書かないといけないか。

そして記者クラブメディアも当てになりません。主に防衛省や自衛隊から情報を得ているのでかなりバイアスがかかっています。専門記者は殆どおらず、海外の専門誌の購読すらまともにできず、彼らが海外取材することも殆どありません。

世界の軍事の現状はどうなっているのか、また防衛省や自衛隊の政策や装備調達、運用は適切なのか。そういう評価のための情報が入ってこなくなります。

ですから公的な予算で海外の軍事事情を調査、取材してこれを発信するべきだと思います。例えば財務省や会計検査院の内部あるいは所轄する団体を作るべきです。

そこで専門の記者を雇用する、あるいは仕事を委託することで恒常的に軍事情報に関わる仕事を提供する。例えばフリーランスに海外の見本市を取材して、その記事を書かせる場合、取材費を全額負担して、記事やレポートを書かせる。その人間が他の媒体に取材をもとにした記事を書くのもOKとする。

軍事ジャーナリストだけではなく、防衛省や自衛隊、専門商社などの退職者や中途退職者も調査員として受け入れる。自衛隊OBでもレポートを手弁当で書いてらっしゃる方もおいでですが、本来対価を払ってお願いすべきものです。一つの見本市でも展示は多岐にわたりますから一人では無理です。無線や無人プラットフォーム、サイバーなどそれぞれ専門の人間が取材すべきです。また合わせて日本の防衛に関する情報も発信する。

また海外の専門誌の記事を翻訳して紹介したり、専門書の翻訳も必要でしょう。出版会にはそのような余力はありません。

このような活動は防衛省や自衛隊の政策や予算のあり方を検証する上で大変有用です。海外から比べて特に情報開示に不熱心ですから尚更です。当然防衛省にも情報開示を要求します。

軍事の情報で食えるというシステムを作らないといけません。専門知識や外国語を使って仕事をするのですから年収1〜2千万円ぐらい取れるようにしないと人材は集まりません。

仮に年に10億円かかっても防衛費の適正化には数百億円以上の効果があるでしょう。絶対にペイする投資です。

軍事だけ特別扱いするのかと言われそうですが、例えば法務省ならば在野の弁護士ら法曹関係者や学者がいます。厚労省など他の省庁でもそうです。対して防衛はそのような在野が少なく、政治家などもソースが防衛省や自衛隊ですから相当偏っています。当然防衛省や自衛隊のあり方の監視や検証はできていません。

防衛研究所は防衛省の身内ですし、与党に忖度しますから役に立ちません。

こういうことをやらないと10年後には大変な事になっていると思います。

【本日の市ヶ谷の噂】
機能不全が噂される自衛隊入間病院長、加藤圭空将補の専門は検査で、外傷や救命に関する知識は皆無、との噂。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2024年1月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。