イラン「ソレイマニ司令官の命日」のテロ事件

テヘランからの情報によると、イラン南東部ケルマン市で3日、2度大爆発が起き、少なくとも103人が死亡、140人以上が負傷したという。イラン当局は犠牲者の多さにショックを受け、「明らかにテロ行為だ」として、断固対応すると表明している。犯行声明は出ていないので、誰の仕業かは目下不明だ。複数のメディアによると、「バッグに入っていた爆発物が遠隔操作でさく裂した」という。

米軍の無人機で殺害されたソレイマニ司令官の埋葬(2020年1月7日、ケルマン市、IRNA通信公式サイドから)

イラン最高指導者ハメネイ師、テロを厳しく批判し、報復を表明(2024年1月3日、IRNA通信から)

3日はイラン革命防衛隊(IRG)司令官だったカセム・ソレイマニ将軍が2020年1月、米無人機の攻撃でイラクで殺害された命日にあたり、同司令官の出身地ケルマン市ばかりか、イラン各地で同司令官の追悼集会が開催されていた。イラン国営通信IRNAは3日、「イラクの首都近郊で米国の無人機攻撃で暗殺されたカセム・ソレイマニ司令官の追悼式に大勢の人々が出席していた」という。爆発テロは明らかに同司令官の追悼式の参加者を狙ったものだ。ソレイマニ司令官はケルマン市の殉教者墓地に埋葬されている。

米国関係者は、「テロのやり方がイスラム過激テロ組織『イスラム国』(IS)のそれに酷似している」として、「IS犯行説」を匂わせる一方、イランの宿敵イスラエルのモサドの関与については否定的な立場を取っている。

イラン革命部隊「コッズ部隊」のソレイマニ司令官はイランでは英雄だ。同司令官はイラクばかりか、シリア、レバノン、そしてイエメンなどで親イラン派武装勢力を支援してきた人物であり、数多くのテロ襲撃事件の黒幕の1人だった。その意味でソレイマニ司令官は国際テロ組織「アルカイダ」の指導者ウサマ・ビンラディンやISの指導者アブバクル・バグダティと同様、欧米諸国では危険人物だった。ちなみに、米国は2019年4月にIRGをテロ組織に指定している(「ソレイマ二司令官は英雄だったのか?」2020年1月14日参考)。

バグダッド国際空港近くで米国の無人機攻撃により暗殺されたソレイマニ司令官の死が報じられると、イラン全土で追悼集会が開催される一方、イラン当局は米国に対して報復を宣言していた。あれから3年が経過していた。同司令官の命日の追悼に参加していた人々が今度は爆発で殺害されたわけだ。

イランのイスラム革命最高指導者ハメネイ師は3日夜(現地時間)、ケルマン南東部の都市でのテロ攻撃で数十人が殉教したことについてメッセージを発表し、「イラン国家の邪悪で犯罪的な敵が再び悲劇を引き起こし、多数の人々が殉教した」と述べ、「加害者は間違いなく正当な処罰の対象となり、彼らが引き起こした悲劇に対して厳しい対応を受けるだろう」と警告した。

また、ライシ大統領は、「間違いなく、この卑劣な行為の犯人と首謀者は間もなく特定され、有能な治安部隊と法執行部隊によって裁かれるだろう」と述べている。

問題は誰が今回のテロを実施したかだ。イランの核関連物理学者が暗殺されたり、イラン政府の関係者が事故死したりすると、「イスラエルのモサドの工作」と直ぐに糾弾してきたが、IRNA通信(英語版)は4日現在、具体的なテロリストや組織名を挙げて報じていない。ということは、今回のテロには米国もイスラエルも関与していないからだろう(「『イラン核物理学者暗殺事件』の背景」2020年11月29日参考)。

22歳のクルド系イラン人のマーサー・アミニさん(Mahsa Amini)が昨年9月、イスラムの教えに基づいて正しくヒジャブを着用していなかったという理由で風紀警察に拘束され、刑務所で尋問を受けた後、意識不明に陥り、病院で死去したことが報じられると、イラン全土で女性の権利などを要求した抗議デモが広がっていった。その時、ハメネイ師は、「わが国を混乱させている抗議デモの背後には、米国、イスラエル、そして海外居住の反体制派イラン人が暗躍している」と主張し、反論するのが常だった。そのイランが多くの死傷者を出したテロで米国やイスラエルの名前を出して批判していないのだ。今回のテロには両国が関係していないからだ(「イラン『アミ二さん一周忌』を迎えて」2023年9月16日参考)。

米国側が示唆する「IS説」が正しいとすれば、イランにとって少々厄介だ。ISはスンニ派のイスラム過激派テロ組織だ。そしてイランはシーア派の盟主だ。そのISがイラン国内でイランの英雄ソレイマニ司令官の命日にテロを行ったということになる。換言すれば、イスラム教のスンニ派とシーア派の宗派間争いという構図が浮かび上がってくるからだ。

イランはスンニ派の盟主サウジアラビアと接近している時だけに、スンニ派過激派テロ組織ISのテロが事実とすれば、イランにとってタイミングが悪い。イスラエルのガザ戦争ではハマスを支援するイランはイスラエルの報復攻撃を人道的犯罪だと糾弾し、アラブ・イスラム教国を結束させて反イスラエル包囲網を構築している時だ。イスラム教国の結束を壊す宗派間の対立劇はそれゆえに歓迎されないのだ(「サウジとイランが接近する時」2021年4月29日参考)。

その推測を裏付けるように、IRNA通信は4日、「北ホラーサーン州のスンニ派聖職者らは声明を発表し、イランの治安当局と司法機関に対し爆発実行犯に対して厳しく対処するよう求めた」、「イランの著名なスンニ派指導者であり、ザヘダーンにあるスンニ派マッキ・モスクの金曜礼拝指導者のモラヴィ・アブドゥル・ハミド師も、このテロ攻撃を衝撃的だと述べ、このテロ攻撃を強く非難した」と、スンニ派聖職者の声をわざわざ掲載している。

※編集部注:追悼式典での爆発はIS(イスラム国)がじぶんたちの犯行だとする声明を出しています。

テロの現場 (1月4日IRNA通信公式サイドから 編集部)


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年1月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。