リスク管理と保険、リスクテイクとモラルハザード

事業経営のリスクには二階層があって、第一は、事業の目的として明確な意図をもって積極的にとる本源的リスクであり、第二は、そのリスクをとったことによって、意図しないにもかかわらず受動的にとらざるを得なくなる様々な付随的リスクとなる。

本源的リスクをとることは、能動的な意味をこめてリスクテイクと呼ばれ、付随的リスクについては、能動的にとられるものではないので、マネッジ、もしくはコントロールという用語が使われていて、日本語ではリスク管理と呼ばれる。

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リスク管理の対象となるリスクは、意図しないリスクだから、最小化されるべきだが、そのためには必ずコストを発生させ、また、いかに努力を徹底したとしても、リスクは完全にはゼロにならないから、残余リスクは自己資本の充実によって吸収させるほかなく、そこに資本コストを発生させる。

故に、リスク管理という機能は、リスク削減とコスト削減との相反関係について、最適な状態を維持し、また残余リスクに対して適切な資本配賦を行うものとして、経営上の重要な役割を演じているわけだ。

保険は、不確実なリスクについて、確定したコストとしての保険料を対価にして、それをゼロにする仕組みであって、保険においては、将来に発生し得る不確実なコストとの等価交換として、現在の確実なコストとしての保険料が算定されているので、将来の不確実なコストの現在価値としてのリスクの意味が明瞭に示されているわけである。この将来の不確実なコストとしてのリスク認識こそ、経営におけるリスク管理の要諦である。

しかし、保険は、確率統計的にリスクと保険料の等価性が計算可能なものにしか適用できないので、天災等に関するリスク、火災や運送途上の事故に関するリスクなど、産業一般に共通するリスクに範囲が限られる。各事業の特性に固有のリスクについては、付保できないので、経営の重要な課題として残るのである。

保険はリスク管理の手法なのであって、その対象となるリスクは付随的リスクだけである。リスクテイクの対象となる本源的リスクに保険をかけることは無意味であり、無理にかければモラルハザードという不合理を生じるわけである。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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