議事堂襲撃事件から3年、米世論に変化

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2日に「ワシントンポスト」が報じた、昨年12月14日〜18日に同紙とメリーランド大学が共同で1024人を対象に実施した世論調査結果は、議事堂襲撃事件(以下「J6」)が発生した21年の12月に同所が実施した調査(前調査)との比較において米国民の「J6」評価に生じている変化を表している。

先ずバイデンが正当に選出された大統領と信じる米国成人は、前調査の69%から62%に低下した。内訳は共和党支持者39%⇒31%、民主党員支持者94%⇒91%、無党派72%⇒66%。つまり、米国の成人を2.6億人とすると不正選挙だったと考える者が1年で7ポイント=18百万人増えた計算になる。

記事は対象者数名のインタビューを載せている。その一人はジョージア州の選挙職員が偽の投票用紙を集計するビデオ画像からの影響を受けたと述べた(この職員親子は最近、名誉棄損訴訟で約1.5億ドルを勝ち取り、被告のトランプの元弁護士ルディ・ジュリアーニを破産に追い込んだ)。

またある共和党支持者は、もし病気でなかったら自分もデモに参加したと述べ、参加した知人から聞いた話やタッカー・カールソンが公開した議事堂のビデオ画像から、FBIの潜入捜査官が暴動を扇動したという陰謀論を信じるようになったと語る。

別の無党派女性は、「J6」のとき大統領が「やめろ」と言わなかったことに腹を立てたが、警察が催涙ガスやゴム弾を使うビデオを見て、この暴動は法執行機関が扇動したのではないかと考えるようになった述べ、(チェイニーが主導した)下院公聴会を「まったく一方的」と感じ、この間の激しいトランプへの批判によってむしろ彼に共感するようになったと付け加えた。

設問に戻る。「J6」の責任がトランプにあるか否かとの問いでは、前調査では米国成人の60%が「大いに」または「それなりに」責任があると答えていたものが、今回は53%と7ポイント低下した。とりわけ共和党支持者では前調査の27%から14%にまでほぼ半減した。

トランプは「J6」で「罪を犯したか」との問いでは、その可能性が高いとする米国成人は56%となった。民主党支持者では9割近くがトランプは有罪だとするが、共和党支持者では7割近くが無実だと答えた。無党派層ではトランプ有罪が無罪の約2倍近くいる。

またトランプの起訴で、司法省は「他の者と同様に法の下で責任を果たしている」とする米国成人もほぼ同率の57%だが、共和党支持者の77%はこれに不同意だ。「WaPo」はこれを「トランプが根拠なしに繰り返し主張している様に」政治的な理由で標的にされていると考えていると論評する。

56%がトランプは有罪だと考えているにも関わらず、「J6」に関連する行動によって彼が大統領としての資格を失うべきだと答えた者は46%と過半数には至らない。17%はトランプの行動は大統領としての適性を疑わせるものだと答えたが、33%は大統領としての適性とは関係ないと答えている。

これに関連して、12月19日にコロラド州最高裁が出したトランプを州の予備選から排除するとの判決は、メイン州の司法長官が同様の判断を下した件と共にトランプ陣営に依って最高裁に上訴され、最高裁は5日にこれを受理し2月8日に口頭弁論を審理する予定となった。

同様の訴訟が35の州で提起されたが、アリゾナ、ウェストバージニア、バージニア、ミネソタ、ロードアイランド、ミシガンとフロリダ州(2件)の8件は却下された。コネチカット、デラウェア、アイダホ、カンザス、ユタ、オクラホマ、マサチューセッツ、モンタナ、ペンシルベニアの10件は自主的に取り下げられた(6日の「Axios」)。

次に「J6」が「決して忘れてはならない民主主義への攻撃」だったか否かについて、米国成人の55%が「そう信じている」とした。一方で、共和党支持者の7割以上は「J6」が大きく取り上げられ過ぎであり、「気持ちを切り替える時だ(time to move on)」と答えている。

また「J6」のデモ参加者が「ほとんど暴力的だった(mostly violent)」と答えた共和党支持者は18%で、前調査の26%から8ポイント減少した。他方、民主党支持者の77%、無党派層の54%はこれに同意しており、前調査とほとんど変化がない。

議事堂に侵入した者に対する法的処罰について、「公正だ」あるいは「厳しさが足りない」と答えた共和党支持者は55%で、前調査の64%から9ポイント減少した。一方、民主党支持者では約9割が処罰は「公正だ」または「厳しさが足りない」と回答している。

さて、米国成人の多くが「公正だ」または「厳しさが足りない」とする議事堂侵入者の処罰に関連して、D.C.巡回控訴裁判所は5日、「J6」で「暴力的でも破壊的でもなかった(neither violent nor destructive)」ラッセル・アルフォード被告に対し、禁固12ヵ月+釈放後監視12ヵ月の判決を下した。

この被告は21年3月に逮捕され、司法省国家安全保障局テロ対策課とアラバマ州北部地区連邦検察局に支援されたD.C.連邦検察局によって起訴された。23年1月に有罪判決を受けた後、被告は3月8日に控訴し、量刑の妥当性と一部訴因の証拠について争ったが、控訴裁判所でも有罪となった。

判決文に拠ると、①制限された建物への進入またはその場に留まること、②制限された建物内での無秩序または破壊的行為、③議事堂内での無秩序または破壊的行為、④議事堂内でのパレード・デモ・ピケ行為の4つの訴因のうち、被告は②③の「無秩序または破壊的行為」を証明する証拠が不十分だと主張した。

が、控訴審は次のように述べて被告の主張を退けた。

証拠は被告が国会議事堂内にいた短い時間、暴力的でも破壊的でもなかったことを示している。それにも関わらず我々は有罪判決を肯定する。なぜなら陪審は、被告が暴徒の一部として国会議事堂に無断で存在したことが、議会の選挙人認定を妨害し、公共の安全を危険に晒した可能性を合理的に認定した。

5日にペンシルベニア州で行った選挙演説で、バイデン大統領は「J6」事件をことさら強調した。それによって彼はトランプ前大統領と他の共和党員が、その日に世界が見たある種の過激主義を信奉していたという主張と「J6」とを結び付けようと試みた(5日の「The Hill」)。

筆者は21年2月の拙稿で「議事堂乱入は扇動した過激な少数によるもので、大半は釣られた入った野次馬と見るべきだろう」と指摘した。しかし「釣られて」入った議事堂で「暴力的でも破壊的でもなか」ろうと、つまり「悪意」や「犯意」がなくとも「J6」陪審裁判で禁錮刑が科される判例ができた。

司法省は5日、「J6」に関与した容疑でこれまでに全米50州ほぼ全ての州で1265人以上が逮捕・起訴されたと発表し、このうち200件の逮捕がここ半年間に行われた。事件から3年が経過しても検察当局の取り組みが依然として強力であることを示している(5日の「Axios」)。

バイデンに任命されたマシュー・グレイブスD.C.連邦検事(20年選挙のバイデン陣営顧問)は4日、「その日に建物に入らなかった数千人を捜査し、起訴するだろう」と警告した。現に、議事堂の敷地を横切ってビデオを撮影した廉で起訴され、14日間の禁錮刑となったクイ・グリフィン氏の控訴審がD.C.巡回控訴裁判所で進行中だ。

今後、「J6」の逮捕者が更に増え、有罪判決を受ける「釣られ犯」が頻出するなら、無党派層にも同情論が広がって前述の世論調査に見られる「変化」が拡大する可能性がある。そのことはまた、トランプを大統領に再選させ、そうした者らに恩赦を出させようとの機運の高まりを意味するのではなかろうか。