1月2日に羽田空港で起きた日本航空と海上保安庁の飛行機事故に関して、様々な報道が飛び交う中、航空安全推進連絡会議が出された声明を読みました。
「2024年1月2日に東京国際空港で発生した航空機事故に関する緊急声明」 航空安全推進連絡会議
そこに書かれていること、特に、
- 「航空機事故の発生原因には複合的な要因が潜在しているため、事故原因を調査し再発防止に務めるという考え方が国際民間航空条約(ICAO)の原則」
- 「日本では、運輸安全委員会の事故調査結果が刑事捜査や裁判証拠に利用されています。これらの行為は・・・調査結果を利用することを禁止するICAOの規定から逸脱した行為であり容認できるものではない」
- 「航空機事故において最も優先されるべきは事故調査であり、決して刑事捜査が優先されるものではない」「調査結果が、再発防止意外に利用されるべきではない」
はメディアの方々だけではなく、多くの人に読んでもらいたい部分です。
航空安全推進連絡会議は、1966年に発生した航空機連続事故を契機として、1966年3月に設立されたそうです。
この声明に対して「100%同意「失敗の科学」を読んだことがある人間なら、絶対この意見に同意するだろう」という呟きを見て、
100%同意です。
マシュー・サイド(著)「失敗の科学」https://t.co/nshENESTED
は、エンジニアだけではなく、管理職の人々にとって必読の書だと思います。 https://t.co/laCZk5I8m4 pic.twitter.com/dFYiySlmY2— ノギタ教授 (@Prof_Nogita) January 4, 2024
二年前に読んだこの本、
を思い出し、再読しました。
著者のマシュー・サイドさんは、英『タイムズ』紙の第一級コラムニスト、ライター。オックスフォード大学哲学政治経済学部(PPE)を首席で卒業後、放送協会(BBC)『ニュースナイト』のほか、CNNインターナショナルやBBCワールドサービスでリポーターやコメンテーターなども務める方だそうです。
この本には、主に医療事故と航空事故の歴史と人類がそれをどう克服して、事故を減らしてきたかのお話しが、豊富な例と共に書かれています。いくつかのエピソードは既に多くの人が知っているもので、例えば、撃ち落とされずに帰還した戦闘機を調査し、どの箇所をより厚い防弾措置をとるべきか?などの選択的バイアスのエピソードは皆さん知っていると思います。
選択的バイアスの詳細は以下の本にも紹介されています。
特に航空機関係の事故とその後の原因究明と安全性向上に向けた航空運輸関係の取り組みに、出張で飛行機に乗る機会が多い僕にとって、そして工学系研究者として航空安全推進連絡会議が出した声明「2024年1月2日に東京国際空港で発生した航空機事故に関する緊急声明」は、工学部の学生だけではなく、広く一般の人に読んでもらいたいと思います。
ところで、本書「失敗の科学」の数あるエピソードの中で、僕が経験したものと同じものがありました。それは「トヨタから学んだバージニア・メイソン病院の挑戦」という章で、失敗を処罰するのではなく、むしろその報告とその後の原因究明と改善・改良で安全性を高めるという部分です。
多くの人は失敗すると、それを失敗と認めないか、隠蔽したくなります。犯罪でない限り、失敗は失敗をした個々人を糾弾するのではなく、報告することをよしとして、失敗から学ぶという姿勢やシステムの構築が重要だということです。
豪州新コロンボ計画で、僕の大学の工学部の学生をトヨタ自動車九州のレクサスなどを製造している宮若工場に三度、2017、2018、2019年に引率して工場見学をしました。この工場は連続5年間、世界の自動車工場でベストだとの評価を受けているとのことでした。
朝一で、自動車ボディーの隙間の検査員は、指先をギャップ感覚のテストをして、合格した検査員のみその日の検査作業をするという、「巧みの技」的なことにも驚いたのですが、一番驚いたのは、製造ラインです。
製造ラインには次から次へと組み立てる自動車がやってきますが、作業員が異変を感じたときにラインをストップさせる紐が天井からぶら下がっています。その紐を引っ張ると、一部製造ラインの流れがストップするので、作業員は叱責や懲戒の処分を受けるものだと思っていました。ところが、逆に「問題点を見つけた」ということで、褒められるとのことでした。
僕自身は、2年前にマシュー・サイド(著)「失敗の科学」を読んで、自分の研究室・実験室の安全向上に役立てているところです。
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豪州クイーンズランド大学・機械鉱山工学部内の日本スペリア電子材料製造研究センター(NS CMEM)で教授・センター長を務めているノギタ教授のYouTubeチャンネル「ノギタ教授」。チャンネル登録よろしくお願いいたします。