長い休暇を終え、下院議会は1/9(火)から米議会は再開。上院議会は1/8(月)夕方から再開する。来週の1月15日はキング牧師記念日のため米議会は上下院ともに休会予定となっている。
ジョンソン下院議長とシューマー上院院内総務は2024年裁量的支出の上限に合意
2024年度の裁量的支出の上限は$1.59兆でシューマー上院院内総務と合意したとジョンソン下院議長は共和党議員向けに文書で発表した。
ジョンソン下院議長が発表した文書では、裁量的支出の非国防費を$7040億・国防費を$8863億と書いている一方で、民主党シューマー上院院内総務は非国防費$7,727億を確保したと書いている注1)。この食い違いは、 Fiscal Responsibility Actの時に非国防費の分野で調整費として$690億が認められていたのを民主党側はこれを含んで発表しているからだ。
2024年6月の米債務の上限を上げるために成立したFiscal Responsibility Actで2024年度予算は裁量的支出の非国防費を$7040億・国防費を$8863億、非国防費$690億の調整費と決められていた。
なので、今回は改めて宣言したにすぎないわけだが、それでも上下院は年度予算の総上限額も決めないまま年度予算を作成していたので少しは進捗したといっていいだろう。そもそもシューマー上院院内総務とジョンソン下院議長の話し合いが成立した時点でも大きな一歩だ。
なお、共和党下院議員内のフリーダムコーカスは既にこの合意は失敗だとして反発している。現在の議席数では、民主党からの票を頼らない場合は共和党から3名の反対者がでるだけで下院は可決できない。そのため、現在の合意のまま進めようとするなら民主党からの票を必要とすることになるだろう。
つなぎ予算期限は1/19と2/2
過去記事の繰り返しになるが、年度予算は12の法案をパッケージにして審議・可決されている。全体の裁量的支出の上限に合意したとはいえ、やっと各分野の予算決めに入ることができる。
まず、大前提として年度予算は各委員会から提出される12の法案を1つのパッケージにして「オムニバス法案(Omnibus Bill)」として審議・可決されてきた。これは別に規則・法律で決まっているわけではない。それぞれの歳出法案ごとに審議を実行しようとすると、審議が難航して可決できないことさえあるため、1990年以降はオムニバス法案で進めてきただけだ。もっとも、この進め方こそが債務を増加させたと下院共和党フリーダムコーカスなどは主張している。それぞれの予算について細かい審議が本議会でできなくなっていることに不満をもっている議員は多いのはその通りだ。法案ごとに交渉したいのだ。
そのパッケージの中身である12の法案のそれぞれの進捗は以下のとおりだ。そして、法案ごとにつなぎ予算期限が異なるため、期限切れとなった場合は、すべての政府閉鎖ではなく、該当する行政機関が閉鎖となる。例えば、農務省関連の予算の期限が切れた場合は農務省関連行政機関が閉鎖となる。
1/19に4つの歳出法案が期限切れとなるわけだが、年間裁量支出の約20%に相当する。下院議会は11月14日の週で可決したのを最後に、交渉は続いているが審議にむけたスケジュールがでてこない。一方で、上院は12法案すべて委員会採決は済んでいるが、本議会での採決は進んでいない。
「また、つなぎ予算を可決すれば済む話」ではあるのだが、問題はジョンソン下院議長だ。ジョンソン下院議長は11月時点で「次の期限でも、つなぎ予算を進めることはない」と宣言している。
ジョンソン下院議長が発表した文書にも、つなぎ予算で進めるとは書かれていない。一方で、Roll Callによると関係者筋では3月までのつなぎ予算を進めるとの話もでている注2)。
民主党に二者択一を突き付ける共和党「政府閉鎖か、 Secure the Border Act of 2023の可決か」
民主党は厳しい選択を迫られている。
政府閉鎖を回避したければ、「Secure the Border Act of 2023」を可決せよと迫っているのだ。 「Secure the Border Act of 2023」 は、国境の壁建設を進めるだけでなく、不法移民の亡命がほぼ不可能になるトランプ政権時代の国境政策を復活させる法案だ。この法案は共和党にとって極めて優先度が高いだけでなく、 下院共和党議員222名中219名が賛成に票を投じた。この時、民主党議員は1人も票を入れていない注3)。
民主党の支持団体の一つは移民擁護団体があり、民主党ヒスパニック系議員は開かれた国境を支持している。 「Secure the Border Act of 2023」 に賛成票を投じようものなら、選挙区によっては民主党議員は次の選挙で勝てないといってもいいだろう。
一方で、下院共和党のほとんどが票を投じているということは国境の壁建設だけでなく、人道的な仮釈放を含めて不法移民を国内に入れないというのは下院共和党の総意ともいえるのだ。
年初にジョンソン下院議長は共和党下院議員約60名と共にTX州の国境付近を訪問して「イスラエル・ウクライナなどへの新たな歳出をするには、Secure the Border Act of 2023の立法が必須」と改めて宣言している。
国境を超える不法移民は2023年9月に過去最大の約26.9万人(月間)に達し、10月・11月はそれを超えないまでも24万人を超えている。国境を渡る不法移民が1日1万人にも達している日もある。
ちなみに、「Secure the Border Act of 2023」には 連邦レベルでE-Verifyの利用を雇用主に義務付ける条項が盛り込まれている。E-Verifyは、雇用主が連邦政府のI-9フォームを参照して従業員の移民ステータスを確認し、労働が許可されているかを確認するためのシステム。現在は州政府など公務員雇用で義務付けられていることが多いが、同法案では民間企業にまで義務付けようとしている。 米国籍をもつ労働者の賃金を上げる効果があると考えられているが、そうでない調査結果もでている注4)。
ツイートで「不法移民は働きたいのではなく、ベネフィットを得るためにやってきた」というコメントを頂いたので補足しておく。
まず、連邦政府レベルでは不法移民(少なくとも滞在資格がない移民 ”unauthorized immigrants”)は、フードスタンプなど連邦政府が実施しているベネフィットを受け取る資格はない(ただし、キューバとハイチからの移民は特別対応されているので受給している)注5)。
フードスタンプ、メディケイド、メディケア、低所得者住宅エネルギー扶助プログラムなど、連邦政府の援助プログラムの恩恵を受けることができない。しかしながら、Emergency Medicaid(医療上、緊急事態が発生した場合)や学校給食プログラムは 滞在資格がない移民”unauthorized immigrants” でも受給できる。
なので、滞在資格がない移民にどういった各州がベネフィットを提供しているかだ。例えば、CA州は滞在資格がない移民を全米で最も多く抱えている州だ。約250万人が滞在しており多くのベネフィットを提供している注6)。
2013年からは滞在資格がない移民に運転免許証の取得を許可しており、約100万人以上が運転免許証を取得している。また、CA州独自の公的医療制度Medi-Calは2018年に非正規滞在の子供たちを加入させ、2020年には26歳までの成人をカバーし始めた。そして2024年1月1日には滞在資格がない移民の全年齢を対象とした。2025年には州独自のフードスタンプも開始するようだ。
なお、 移民であることを理由に受給資格がない労働者に失業手当を支払う試験プログラムを開始する法案を可決したが、財政赤字懸念を理由にニューサム知事は拒否権を発動した。すでにCO州とNY州は、滞在資格がない移民に失業手当を支給するプログラムを開始している。
米議会で通過した最後の包括的な移民法案は、1986年のロナルド・レーガン大統領によるものだ。当時、約300万人の不法滞在者に合法的な恩赦を与えた。2007年、ジョージ・W・ブッシュ大統領は民主党議員と協力し、新たな包括的法案の妥協点を見出そうとしたが、結局上院では十分な支持を得ることができなかった。トランプ前大統領も大幅な移民改革を提案していたが、議会を通過できる立案まではいかなかった。
会期ごとに米議会で進めているような記憶があるが、民主党と共和党で改革する方向が異なっており未だにアップデートできない状況が続いている。ジョンソン下院議長がもし移民法をアップデートできたとしたら、歴史的な成果になるのだろう。実現してしまったら、ますます2024年バイデン大統領再選は危険な状況にはなるだろうが。
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注1)Schumer, Jeffries Joint Statement On Bipartisan Topline Appropriations Agreement
注2)Congressional leaders announce topline deal on appropriations
注3)Roll Call 209 | Bill Number: H. R. 2
注4)5 things to know about the border bill at the heart of GOP shutdown threats
注5)With the end of Title 42, here are the U.S. benefits migrants can claim
注6)Profile of the Unauthorized Population:California
編集部より:この記事は長谷川麗香氏のブログ「指数を動かす米議会」2024年1月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「指数を動かす米議会」をご覧ください。