続・災害の度に湧いてくる人々

Pavel Naumov/iStock

被害状況と政府の対応

石川県能登半島で起きた地震から10日が経過し、徐々に能登半島全域の状況が判明し始めた。

能登半島全域に広がる高齢者を中心とした集落に向かうには、限られた道路を使わなければならないが、半島をぐるりと回る道路はあちこちで寸断されていて、地震の規模の大きさを物語っている。

幹線道路については地元業者を中心に道路の啓開作業が進み、また。復旧が間に合わない僻地については、自衛隊員が歩いて支援物資を担いで現場に向かう等、現場の状況が徐々に明らかになってきた。

消防、警察、自衛隊、周辺自治体、災害対策基本法の中で指定業者になっている企業は、自治体の要請を待たずプッシュ型で支援物資を大量に現場や自治体施設に送り込んでいる。

政府の対応が遅いとか、復興に向けて予算措置を行うのに対応が遅いと批判するSNSアカウントが見受けられるが、そもそも、災害時の政府決定は、発災時に遡って適用されるので、決定が少々、遅くてもあまり関係はない。

これまで、政府は、①47億円の支援を閣議決定し、②復興・復旧の予算をこれまでプールしてあった予備費5,000億円から1兆円に倍増を閣議決定(予定)とした。

加えて、③初動で1,000人出動させた自衛隊員を直後に2,000人に増強、更に火を経ずして4,000人態勢に増強した。

地震からの復旧・復興へ予備費を1兆円に倍増 16日にも閣議決定

地震からの復旧・復興へ予備費を1兆円に倍増 16日にも閣議決定:朝日新聞デジタル
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能登半島地震、被災地で活動する自衛隊員を4600人に増強

能登半島地震、被災地で活動する自衛隊員を4600人に増強
【読売新聞】 岸田首相は4日午前、首相官邸で記者会見し、石川県能登地方を震源とする地震の被災地で活動する自衛隊の総数を同日中に約2000人から約4600人に増強すると表明した。

よく東日本大震災や熊本地震を引き合いに出す人がいるが、そもそも、各地の災害を比べることがナンセンス。

状況はそれぞれの災害毎に全く違う。

今回の能登半島地震の場合、被災地へのアクセスが極端に難しい。まず、被災地にたどり着くための道路が壊れている。つまり道を作るところから始めなければいけない。それでは間に合わないから、自衛隊は荷物を担いで徒歩で被災地を目指している。

また、これまでの大規模災害に基づいて整備が進んだ災害対策基本法に基づき、自治体は発災時より、基本的な自治体の動きをマニュアルに頼ることになる。当然、マニュアルだけでは災害対策が困難であることは勿論だが、何をすべきか?は日本の自治体は手順が決まっている。そして何より最優先は、被災者の非難と、生き埋めになってる人の早期の救出だ。

海外からレスキュー隊派遣の申し出について、日本政府は断ったとの間違った情報が流布されたことも、注意が必要で、能登半島の被災地へのアクセスが難しい状況で海外のレスキューを受け入れたとしても対応が難しいことも容易に想像が出来る。また海外のレスキューが入ってきたとしてもそれをどう振り分けるか?という問題もある。

次に、よく言われるのが、地上からのアクセスが難しいなら、ヘリを使って空から向かえば良いではないか?との議論も聞かれる。

自衛隊は発災当初から被災地に向かう準備を行い、当然だがヘリによる救援物資の搬送、救援隊の派遣も行ってきたが、前述の通り、能登半島という地理的条件が空からのアクセスを難しくさせている。

救助に使うヘリやある程度の人数を運ぶヘリは相応の大きさを持ち、離着陸にも相応の面積と飛行技術を必要とする。力も強く、そのダウンウォッシュ(ローターが発生させる吹き下ろしの風)は、近くに軽四輪を置いていればひっくり返るくらいのパワーがある。そのようなパワーのあるヘリを被災している場所で使うのは、二次災害の危険性が極めて高い。

地震によって地盤は緩み、建物は余震の度に倒壊の危険に晒されている。

そのような状況で救助ヘリを飛ばすことは、何重もの危険性を伴う。軽はずみにヘリを飛ばせば良いというものではない。

自治体も自衛隊も、飛ばせるものならとっくに飛ばしている。飛ばさないのではなく、飛ばせないのだ。どうして子供でも分かるようなことを批判するのか、理解に苦しむ。

政府対応の違いについて

大災害が発生した時、自治体の対応や政府の対応が槍玉に挙げられるが、今回の「令和6年能登半島地震」でも同様のことが起きた。そして、批判するのは決まって野党よりの考えや野党支持者なのだ。いずれも政府対応を批判したがる。曰く、自民党は頼りにならないとか、金権政治で腐敗しきっている自民党には、日本の統治を任せられないという論旨だ。

ここで考えなければならないのは、先の東日本大震災の時と比較するとよく分かるのだが、自称原発の専門家である菅直人元総理が発災直後に福島第一原発も含め被災地を見に出かけたことが、大変なバッシングを受けた。そして、その批判な政府内からも聞こえてくるものだった。当時、経済産業副大臣が菅直人元総理の取り乱した様子を克明に述懐している。

「総理を落ち着かせてくれ」 現地本部長が見た福島第一

「総理を落ち着かせてくれ」 現地本部長が見た福島第一:朝日新聞デジタル
 東京電力福島第一原発が地震と津波で電源を喪失した翌日、首相は突如、現地を訪れた。混乱を極める中、政府の現地対策本部長として、受け入れ側だった池田元久・元経済産業副大臣(79)は、当時の最高権力者の姿…

未曾有の大災害が起きているのだから、誰だって取り乱すようなことはあるだろう。だが当時、問題になったのは、総理大臣が取り乱したことが問題なのだ。

当時の政府も今の岸田政権も、現場の刻々と変化する状況に対応すべく全力を尽くしたのは否定しない。否定しないが、肝心の中心がブレブレだった状況に最も危機感を持っていたのが、政府内の人々だったことは忘れてはいけない。

今更ながら、当時の旧民主党政権は今の岸田政権以上によくやったという声を聞く。

政府なのだから、その時に全力を尽くすのは当たり前であり、出来ることを最大限やり尽くすのは当然だ。

仮に当時の民主党政権が優秀だと言うなら、どうして民主党は下野したのだろう?それは国民が民主党に対して不信感を抱いたからではないか?

なんとかしてくれると政権を託したにも関わらず、国民の期待を見事に裏切ってしまったから、政権の座を追われたのではないか?

色々あってもやっぱり自民党に頼るしかないと、国民が判断したからではないのか?

これは歴史の事実であり、今の岸田政権と比較したい気持ちは分からないでもないが、東日本大震災当時を知る一人として思うのは、今が立憲民主党政権でなくて本当に良かったという感想以上のものはないと言うことだ。正直言って、立憲民主党政権だったらと思うと、背筋が凍るような思いがする。

それは東日本大震災を見てきたからだ。

今は度重なる大規模災害を通じて、災害対策基本法の中身が醸成されてきており、発災した自治体も政府も、即時対応が出来る素地が整っている。東日本大震災を通じて各種の災害対策特措法も充実してきている。それが全てとは言わないが、しかし、法に則り迅速な対応がやりやすくなったことは事実だ。

附属資料4 災害対策に関する主な法律の一覧 : 防災情報のページ – 内閣府

今回の「令和6年能登半島地震」のような大災害が起きた時、現場の状況が報じられることで、苛々することももどかしい思いをすることもあるだろうが、我々がまず冷静に見つめなければいけないのは、自治体と政府の対応を法律に則り分析することにあるだろう。

以後、

・災害を利用する人たち

続きはnoteにて(倉沢良弦の「ニュースの裏側」)。