もしもトランプ氏が大統領になったら

これから少なくとも数か月、長ければ11月の大統領選挙まで「もしもトランプ氏が大統領になったら」の話題がメディアを賑わすのでしょう。「もしトラ」は日本だけに通じる短縮語ですが、今年の流行語のランク圏に入るかもしれません。ちなみにこの言葉の語源は大ヒットした「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」のタイトルがあまりにも長いので「もしドラ」と言われたところに所以があります。

トランプ元大統領 インスタグラムより

1月15日のアイオワ州党集会で口火を切る共和党の候補者選びですが、現状、トランプ氏が支持率60%程度を維持しており、2位グループのデサンティス氏とヘイリー氏とは数字上、全く勝負にならない状態にあります。趨勢を見るとデサンティス氏の支持率はこの1年、着実に下落しており、一部の調査では既にヘイリー氏がデサンティス氏の支持率を上回っています。

ヘイリー氏は女性候補であるとともに反トランプを掲げています。共和党の支援者はトランプ氏に一定のリスクを見ており、献金が反トランプ派に一部流れるのは献金側の当然の戦略であります。企業の献金は概ね、民主、共和両方にばら撒くのですが、企業のスタンスによりその割合を調整し、更に支持候補についても献金者である企業に「実利」があるべく最適配分をするわけです。

それを踏まえ、反トランプ派は候補者が分散すると不都合になるため、大統領選出馬を目指した人たちは勝ち目がなければ戦略的に早めに選挙撤退をします。今般、反トランプ派だった前ニュージャージー州知事のクリス クリスティー氏も撤退し、その票がほぼ全部ヘイリー氏に流れる展開になっていることは注目すべき点でしょう。個人的にはトランプ氏とヘイリー氏の最終対決となるとみており、長丁場の戦いの中でトランプ氏がオウンゴールとなるような失敗、ないし司法や世論を含む包囲網をかいくぐれるのかが勝負になります。ヘイリー氏は反トランプのみならず、共和党の「保険」となるとみています。

さて、トランプ氏が再選したらいったい何をするのか、気になるところですが、ブルームバーグがまとめをしているのでそのリストを超訳してみました。

  1. 貿易と投資 米国第一主義を目指す
  2. 対中国 投資制限や資本流入制限を含むデカップリングを目指すだろう
  3. 税金 2025年失効の所得税減税の恒久化、代替歳入は追加関税か?
  4. 移民問題 大規模な移民制限を実施
  5. 財政政策 緊縮でもバラマキでもないが、外交を通じた諸外国への支援を減らすのでは?
  6. 規制緩和 1つ規制するなら2つ規制緩和する、つまり緩和方向
  7. 気候変動 興味なし。よってパリ協定から再度離脱か
  8. FRB 政策への不満爆発。26年任期切れのパウエル氏は再任しない意向を公表
  9. エネルギー 従来の化石燃料回帰。EVやクリーンエネルギー優遇措置は廃止

概観するとモンロー主義の色彩も極めて強いと言えます。日本を含め、各国がアメリカとどうやって友達関係を維持するのか、そのハードルが極めて高くなるとみています。11月時点での日本の首相が誰だか想像するのは困難ですが、岸田首相を含め、自民党総裁候補とされる人たちに安倍氏のような芸当ができる人はいないだろうとみています。岸田氏はトランプ氏とはウマが合わないとみています。

日本経済にとってはやや逆風になります。現在平均関税が3%程度ですが、これが10%程度になるのではないか、と見られています。日本製鉄のUSスチールの買収も当局のお墨付きを早くもらわないとちゃぶ台返しになる可能性はあります。

アメリカ国内ではFBI、検察、FRBを含む反トランプ勢力へのリベンジがあるでしょう。いわゆる「当局」勢は人事など相当荒れるとみています。

外交は興味がない、そんな感じに見えます。ウクライナ問題を24時間で終わらせると豪語していますが、その手法は明示していません。個人的には支援打ち切りとみています。中国とは極めて淡泊な付き合いになるでしょう。日本は嫌いではないけれど今、積極的にディールしたい気にもならないのではないかとみています。メキシコ国境の壁も継続して作るし、不法移民絡みのアメリカ永住権は厳しい措置が見込まれます。

外交で唯一高い関心を示すのはイスラエルとみられ、何らかの継続的支援と中東情勢の関与はありそうです。サプライズとしては北朝鮮にもしかしたら関与するかもしれません。金正恩氏はトランプ氏を嫌いではないし、昔からアメリカが憧れであった以上、「俺はプーチンともトランプとも取引できる」と豪語させながらもトランプ氏が手のひらの上でころころする絵図がないとは言えない気がします。

予見しにくいとされますが、2017年から21年までの大統領任期を通じて氏のスタンスは嫌というほど見せつけられたのです。その点からすれば同じような展開になるのはほぼ自明であり、事前に準備ができる点においては都合がよいともいえないでしょうか?

ただ対応には苦慮すると思います。個人的に一番面倒な予感がするのは東アジアの安全保障の問題で、トランプ氏は興味ないとみています。台湾問題も遠い海の向こうの話、日本は自分で自分ことを考えればいい、ぐらいのスタンスだろうと察しています。グローバル化の世界に乾ききったカット&ペースト的なやり方を持ち込まれれば付随的に世界の力関係のバランスも崩れかねないリスクは頭に入れた方がいいのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年1月12日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。