ゲームジャーナリストの小野卓也氏と元歴史家の與那覇潤氏による異色の組み合わせによる「ボードゲームで社会が変わる:遊戯するケアへ(河出新書)」は、ボードゲームを紹介し解説する書籍でありながら、その中心に「ケア」というテーマが存在している対談である。
ボードゲームが参加者に安心できる場を提供することで、特定の人に責任を押し付けない共同作業を行うことが可能になる。ボードゲームはときに社会のうねりをも模倣し、その本質を浮き彫りにする。一方で、ゲームをするときの経験は個人によって異なり、その意味は多様である。読者は、ボードゲームの社会的な価値や可能性を持つことに再び気付かされる。
ゲームにおいては過度に設定された「目的」に縛られることが、面白さを奪うという。われわれは仕事やスポーツにおいても、勝敗に過剰にこだわるといった「目的」に囚われることで、活動が作業的で退屈になってしまっていることに思いが至る。
第1章と第3章では、與那覇氏と小野氏が、定番のボードゲームを紹介しながら現在の社会を論じる対談となっている。ふたりは異なる分野の言葉を通じてボードゲームの「本質」に迫っているのだ。與那覇氏は、自身のゲームプレイ経験を言語化し、それを通じてボードゲームのプレイが社会的にどのように意味を持つかを思索する。一方、小野氏はボードゲームのプレイを仏教的な思想と結びつけ、その深層にある意味を探求している。ボードゲームからここまで深い対話ができるのかと驚くのである。
第2章では、歴史学者である辻田真佐憲氏が『主計将校』を、文化人類学者の小川さやか氏が『ハイソサエティ』をプレイするようすが寄稿されている。また6名の異なる分野の気鋭の研究者がボードゲームをプレイする経験を論じており非常に興味深い。彼らはそれぞれのアカデミックで専門的な知識で、ボードゲームに思想的な意味づけを行っている。
第4章では、與那覇氏による「人狼」を中心にボードゲームがわれわれになにを考えさせるのか、自身の「人狼」をファシリテート(司会進行)した経験を通じて、ボードゲームが「勝敗を気にする遊び」から「民主主義」へと変化する過程が描かれている。同じメンバーで長期間プレイを続けることで、お互いのことをよりよく理解し、共感し合うことによって、ゲームプレイを楽しむ方法を見つけていくのである。
5章では小野卓也氏が「え!と驚くテーマの作品」を少なからず取り上げ、あまりに多様なボードゲームの世界を紹介し、全体を締めくくっている。
本書は、ボードゲームの社会的な価値や可能性について考えさせられる、価値ある一冊である。是非一読してボードゲームにチャレンジしてみてください。