日本衰退の原因と大逆転への処方箋

とある場所で「日本衰退の原因と大逆転への処方箋」という講演をした。講演内容を是非、アゴラの読者にも読んで頂きたいと思い投稿する。

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日本のGDPは平成が始まったころは中国の8倍だった。それがいまや3分の1以下。平成年間の経済成長は世界主要国で最低だった。

かつて江戸時代の中期に、鎖国や封建制度のため日本は停滞し、中国は清朝に三人の賢帝が登場して大躍進した時代があったが、それ以来のことである。

戦争を別にすれば、世界に類例をめったにみない凋落である。人口はどんどん減って、しかも、平均寿命はあいかわらず伸びて、世界主要国最長を維持している。もし、収入が伸びずに老後が長くなれば、現役世代のときに貯めた貯蓄を長期間に渡って少しずつしか使えないのだから貧しい老後になる(あるいは、公的にか個人的にかはともかくとして若い世代に負担をかける)。

なぜ経済は不振のままか。なにより、1980年代以降の日本人は経済成長を目標とすることを拒否してきた。世論調査では、「経済成長はこれまでほど重要でない」が、「景気回復は最優先の課題だ」という結果が常にされるが、景気回復とは経済成長率の基調があがることだから根本的に矛盾した目標設定をしているのだから救いようがない。

どういう経済政策をしたら経済成長率は上がるかのだろうか? マクロ経済政策は経済成長とは基本的には関係ない。マラソンでいえばマクロ経済政策はペース配分など作戦、ミクロ経済政策が走力の強化だ。1980年代以降、低い国民負担率で財政赤字を増やし続けているが、平成年間の経済成長は世界主要国で最低。短期的にはともかく、長期的な趨勢としては、常識的なマクロ経済政策してる国のほうが成長している。

マクロ経済屋さんは、投資や支出の質に鈍感だ。財政でも企業でも、将来、取り戻せる投資はいくらしてもいいし、取り戻せないなら少しでもしない方がいいのが基本だ。ただ、経済規模に見合わない投資はリスクを伴うから、ほどほどにすべきだというのが財政でも企業でも同じ。企業会計や家計と違うところもあるが、同じ所の方がよほど多い。

国民が国債持っている限りは大丈夫なのかといえば、ひとつには、所得の経済の国際化を無視した議論だし、もうひとつには、国民の間における貧富の差の拡大は避けられない。国債の償還金利が上がり始めたら、外国人投資家や海外に資産を移したり移住できる人は逃げられるが、そうでない人は泥船に乗ったまま沈むしかない。金利が高くなれば、富裕層はますます豊かになり、貧困層は福祉切り下げにさらされる。インフラもソフト・ハードともにメンテもできない。

産業の国際競争力はどうしたら上がるかのだろうか? 医者(開業医になるのは半分以下なので勤務医が問題)が安全有利なので、優秀な理科系人材が流れてしまう。医学部の偏差値が他学部なみにさげるまで医者の待遇を下げたら産業は復興する。

日本では入学試験が手抜きなので、子供たちが将来のために意味のない勉強をさせられる。たとえば大学センター試験などトータルで1週間くらいかけるべきだ。英語では萩生田文科相が下村文科相の敷いた民間試験導入を中止したので会話軽視が続くことになった。

人口減少にどう対処するか? 東京と九州では出生率が0.5違う。東京一極集中を解消し、人口を西へ移すべきだ。国防上も必要である。20代で男女とも子育てをするように生涯サイクルを復旧すべきだ。生物としてそれがベストであるし、脂ののりきった時期でのキャリア中断もない。35歳以上だと子育てを助けるべき祖父母が70代になることも問題だ。

個人の自由や選択肢の広さは大事だが、家族の絆を大事にすることを否定するのでなく、深めることを奨励する社会政策であるべきだ。共同親権も大事だが、祖父母や兄弟など、さらには先祖供養などの希薄化はよいことでない。

IT化の遅れは、不公平や不正の露見を邪魔するもの。マイナンバーへの集約化と携帯義務づけが必要だ。現在のような取得携帯使用の奨励で無く、義務づけと、使わないと懲罰的に損をする仕組みにしないと正直者が馬鹿を見るだけだし、財政的負担が無駄に多くなる。

国民(男女とも)が最低限の土木作業、家庭菜園程度の農耕、集団行動、警察や自衛隊への協力をできるようにしておかないと、災害時や緊急事態に対応できないので、そのための訓練をするという方向をヨーロッパではとりつつある。

日本の政治の貧困の原因は、55年体制において、政権選択ではなく、憲法改正の是非が二大政党の争点になったことにある(野党は過半数でなく三分の一で満足)。左か右かの争いではこの閉塞感を破れない。維新が提起している既得権益擁護か改革かという座標軸を持ち込んだことは理に適っているし、既存政党も参考にすべき。

安倍首相がめざした、欧米にインドやオーストラリアを巻き込んだ、価値観同盟は賢明な選択だ。しかし、ロシアとも良い関係は保ち、中国を牽制するはずだったのに、欧米はロシアを追い込みすぎてウクライナ紛争になった。ハマスも追い込みすぎだ。日本はアメリカに協調しつつ、注文をつけ、仲介をあっせんすべきだ。

ユダヤ・キリスト教圏、イスラム教圏などが行き詰まっているなかで、仏教をはじめとする東洋的な中庸主義を世界に通用するものとして磨き、普及を図ることも世界文明への貢献になる可能性はある。

日本人はいかなる歴史観を持つべきか? 日本の国益を最大限にすることが肝要だ。そのためには、欧米など世界から日本への評価を高めるような歴史観を戦略的に構築すべきで、そのためには、歴史修正主義などといわれないように配慮しつつ最大限に過去を擁護すべきだ。中・韓はどうせ納得しないから、国際的に通用する妥当な歴史観を樹立し、世界から支持されることで間接的に受け入れさせるのが賢明である。