「メガバンクでリテール部門が出世コースとなる」は本当か?

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ゼロ金利政策の解除をきっかけに、メガバンクの中でリテール部門の地位が上昇する。

・・・ダイヤモンド・オンライン内で1月9日に公開された『メガバンクの社内序列が金利上昇で激変!台頭するのは冷や飯を食わされていた「あの部門」』では、これまで各行の中で“傍流”と位置付けられていたリテール(預金業務等を扱う個人向け部門)が序列をあげ、出世コースとなりうるという話がありました。

実際にその通りになるかどうかという点について、かつて三菱UFJ銀行にて営業店および本部に在籍していた筆者としては、(リテール部門在籍中の現役行員の方々には申し訳ないのですが)「リテール部門の地位が劇的に向上する望みは薄い」と考えています。

個人顧客は銀行を信用していない

冒頭で紹介した記事では、

金利上昇時代が到来し、個人や企業から集めた預金は、貸し出しや市場での運用で収益を生み出す源泉となる。

今後は、リテール部門トップが登竜門となり、その後にグループ内の要職に就くケースも出てくるだろう。

という記述がありました。

これまで銀行の中で花形とされていた「法人部門」や「経営企画部」などと肩を並べるほどリテール業務の重要性が増してくると、記事の中では予想されています。

ところが、マイナス金利突入以前の一昔前とは異なり、銀行へのイメージは著しく悪化しています。

今や「銀行員=信用できる肩書き」とは見なされなくなり、むしろ「銀行の窓口に行くと変な投資を勧誘されるかもしれないから気をつけないと」と警戒する人が多くなっている時代です。

元銀行員の筆者ですら、客として住所変更手続きのために銀行の支店を訪れた際、営業係の行員とみられる女性から「老後のための資産形成はされていますか?」と話しかけられましたが、まるで街中でアンケート詐欺風の人に話しかけられたような不安感を覚えました。

銀行へのイメージが悪化していることに加えて、現代の個人顧客には「貯蓄から投資へ」の意識が浸透してきている以上、「ゼロ金利が終わったから銀行にたくさんお金を預けよう」とはならないでしょう。

また、投資先を選ぶにしても、必ずしも銀行の金融商品を選ぶ必要はなく、手数料が安い上に“変な勧誘”をされる心配もないネット証券などの手段を選ぶ個人が多くなっています。

これが銀行から融資を受けている企業の場合、(たとえ銀行を心から信用していなくても)資金調達先は銀行という選択肢しかない以上、銀行と付き合わざるをえません。

一方で個人の場合はその限りではなく、口座開設や預金以外の用事で銀行と関わらなくてはならない理由はないので、金融商品を銀行窓口で購入する人はそこまで多くないのです。

“高齢者をターゲットにすれば上手くいく”時期は長く続かない

上記のように、「銀行は個人顧客から相手にされにくくなっているのだから、ゼロ金利が解除されたとしてもリテール部門の収益は伸び悩むはずだ」という筆者の考えに対して、「いやいや、確かに若い世代はネットで情報収集していて“銀行離れ”しているかもしれないけれど、高齢者世代はまだ銀行への信頼感が残っているはずだ」という反論があるかもしれません。

確かに、スマホの所有率が半分をきる70代(総務省の『令和3年版 情報通信白書』によると所有率40.8%)以降の世代であれば、銀行に関する悪い情報や、銀行よりも有利な運用手段に関する情報にアクセスできている層が少ないこともあります。

したがって、昭和的な「銀行への信頼」がある程度残っている可能性があります。

ただし、高齢者の間でも、スマホの所有率は年々上昇しており、今後5〜10年のスパンで、高齢者の間でも「単に子や孫と通話する手段として携帯を所有する」のではなく、「情報取得の手段としてスマホを活用する」割合が増え、高齢者のリテラシーが若い世代のそれに近づくことは間違いありません。

何が言いたいかというと、銀行側の「高齢者を狙えば預金も獲得できるし、金融商品の販売数も増やせるはずだ」という目論見が通用するのは、向こう5年、長くても10年ほどの期間に限定されるということです。

それ以降は、銀行に対して不信感を持ち、あるいは銀行を介さずに資産運用することを選好する高齢者が多数派となる時期がやってくるのではないでしょうか。

上記のような事情から、ゼロ金利政策が解除されたとしても、記事の中で予測されていたような「リテール部門が出世コースと位置付けられる展開」は訪れないと考えています。

向こう5年の期間だけであれば、リテール部門にリソースを注ぎ、高齢者の中に一定数存在すると見られる「銀行を信頼する層」向けの施策を強化することで、多少の成果をあげられる可能性があります。が、長期的にみればその成果は長続きしないはず。

となると、「リテール部門が銀行の中で“出世の登竜門”と位置付けられる」という展開の実現性は残念ながら低いと言わざるをえません。