収入は学歴ではなく住所で決まる

黒坂岳央です。

「収入を決めるのは能力や才能、学歴に人脈だ」と考える人は一定数いる。だが例外こそあれ、統計的には違った結果がありそうだ。エンリコ・モレッティ氏の著書「年収は住むところで決まる」という書籍によると、それを決める一番の要因は「住所」ということである。

同書によると、アメリカの製造業に強い工業都市(デトロイト)に住む高学歴(大卒)より、イノベーション都市(シアトル)に住む高卒の方が収入が高いという結果になった。

これは日本でも同じことが言える。東京でも山手線内で働く方が山梨県に近い奥多摩より収入は高くなるだろう。本人のスキルや人的資質などは住所ほど強く影響しない。都心で働いている、という事実の方が強いのだ。

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イケてる街の収入が高い理由

シリコンバレーや東京都心など、いわゆる「イケてる街」で働くとなぜ収入が高くなるのか?

高額所得者が生み出す仕事の付加価値は裾野が広い。米国における高額所得者の筆頭はITエンジニアであるが、ハイスキルワーカーが増加するとそれに伴ってヨガインストラクター、美容師、医師、ベビーシッターなども増加する。高額所得者がそうしたサービスを利用するためだ。

ITエンジニアは生み出すサービスが、次のハイレベルなITエンジニアを生み出し、それら集合することで高所得の雇用を創出する。結果としてそのエリアで働くと、同じ仕事内容でもより所得が平均値より高くなるという循環になるわけだ。高額所得のITエンジニアは高い支払いをしてでも、より高付加価値のベビーシッティングを受けたいと考える。

これは東京などでも同じことがいえる。ブルーカラーに限らず、ホワイトカラーも同じ水準で集合する。スキルは会社組織に集約することで、レバレッジがかかる合理性があるためだ。

「優秀な人がいる場に身を置くと自分も優秀さのおこぼれを預かれる」みたいな話があるが、これは身近に優秀な人がいることでスキルや人的資質に触発されるというだけではない。文字通り、優秀な人が生み出す仕事のおこぼれを預かれるからである。

どこにいるか?こそ重要

人間は環境の生き物と言われるが、正しくその通りで個人レベルでやる気を出すぞという意気込みはほぼ無意味である。それよりも自分がいる場所、つまり環境を変える方が確実かつスピーディーに人生は変わる。

たとえば勉強を真面目にしない学生も、周囲が熱心に勉強に集中する場を与えれば触発されて本人も必死になる。また、そのように熱心に勉強をするような環境にいれば、必然的に進学に有利な学習戦略や情報共有がなされる。友達同士でも進学をする上で役に立つナレッジシェアリングが促進されるだろう。自分が立っている場所は想像以上に人生を変える力があるのだ。

筆者は必要に応じて住む場所を変えてきた。生まれてから会社員をやめるまでずっと都会にしか住んだことがなかったが、起業して熊本県に移住した。それがとてもよかった。自分が住んでいる場所は牧歌的で、周囲は農家や酪農家、鶏卵業者といった第一次産業が多く、自分がやっている仕事のライバルがいない。

その結果、周囲の人間と自分を比べて落ち込むといった余計な他者比較をせず、自分のビジネスに集中できる。人によって有効な環境は様々であり、中には強力なライバルを周囲におくことで、切磋琢磨する環境でこそ頑張れるという人もいるだろう。だが、筆者のように生粋の一匹狼タイプは誰もいない静かな環境が一番集中できる。ライバルや競争を意識しすぎると、相手から着想を得たり、より努力しようという気概よりも思考のノイズやマインドシェアを専有される結果になることが多かった。だから自分にとっては誰もいない静かな環境が一番理想的なのだ。

人生を変えたければまず住む場所を変えればいい。そうすれば必然的に付き合う人も変わるし、仕事も食事など何もかも変わる。もちろん悪い方に変わるのはデメリットではあるが、こと収入に不満足というならまず変えるべきは住む場所で間違いないだろう。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。