コスト削減の欺瞞から危機管理の真実へ

リスクは将来の不確実なコストなので、それを低下させる努力は、必ず何らかの形態において、現在の確実なコストの上昇となって現れる。当然に、逆も真なりであって、表面的には効率化と称してコストの削減が図られている場合にも、その削減されたコストが一見して明らかな冗費でない限りは、必ずどこかで何らかの形で、リスクの上昇、即ち将来の不確実なコストの上昇を招いている。ただし、リスクは、不確実なものとして潜在化していて、コストとして顕在化していないだけなのである。

そこで、コスト削減が真のコスト削減であるためには、顕在的なコストの削減量よりも潜在的なコストとしてのリスクの増加量が小さくなければならず、逆に、顕在的なコストの削減量よりもリスクの増加量が大きければ、コスト削減は欺瞞になるわけだが、人間社会の避け難き傾向として、欺瞞が横行するのである。

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経営者にとって、真のコスト削減は経営技術的に難易度の極めて高いことであるのに対して、見えないリスクを増加させて、見える表面的なコストを削減することほど簡単なことはないから、任期中に成果らしきものを出そうとすれば、欺瞞に流れることは避け難い。しかし、こうした欺瞞を防止することは、おそらくは不可能である。それほどに、真のコスト削減は難しいのである。

故に、コスト削減ではなく、リスク削減を経営課題にすべきなのである。リスク削減を徹底化させた結果として、コストが上昇しないのならば、必ず真の付加価値が生まれているのである。逆にコストの上昇を伴うリスク削減を行う利益誘因は経営者にはないので、経営課題としてリスク削減を掲げれば、コスト削減における弊害を回避できるだけでなく、課題が実現される限り、必ず付加価値が創出されるはずである。

リスク削減の難点は、平時においては、創造されたはずの付加価値は常態においては潜在化していて見えないことである。しかし、危機においては、リスク削減の見えなかった効果が一気に顕在化する。実は、危機のたびに100年に一度などといわれるが、実際には、危機は頻繁に訪れるから、経営者の在任中に何らかの危機が発生すると考えるほうが自然なのであって、リスク削減の効果が危機において顕在化するのならば、多くの場合、リスク削減という経営努力は報われるわけである。

リスク管理の要諦は、危機において発生するコストを最小化できるように事前の備えをしておくこと、即ち危機管理につきるのである。そして、危機管理においては、それに要する現在のコストの上昇が当然に許容されるので、危機管理の徹底は、経営者の意識を、欺瞞にすぎないコスト削減から、危機管理の一部としてのリスク削減へ移行させる好機となる。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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