ドイツ90カ所以上で反AfD抗議デモ

ドイツの高級週刊紙ツァイト(オンライン)によると、ドイツ全土で20日、90カ所以上、合わせて20万人を超える人々が極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)に反対し、「民主主義を守れ」と叫んで街頭に繰り出した(AFP通信は「30万人」と報じている)。

ハンブルク市の反AfD抗議デモ、参加者で溢れる(2024年01月20日、オーストリア国営放送の中継からのスクリーンショット)

警察と主催者によると、フランクフルト・アム・マインとハノーバーだけで3万5000人がデモを行った。フランクフルトのレーマー駅では「ファシズムに反対する団結」や「ナチスの居場所はない」などのスローガンを掲げた横断幕を持った人々で溢れた。

抗議デモが行われた直接の契機は、ブランデンブルク州の州都ポツダム市(人口約18万人)で昨年11月25日、AfDの政治家や欧州の極右活動家のほか、「キリスト教民主同盟」(CDU)や保守的な「価値観同盟」からも数人の関係者が参加し、「外国人、移民の背景を持つドイツ人、そして難民を支援する全ての人たちを強制移住するマスター計画」などについて議論していたことが明らかになり、ドイツ国民や政界に大きな衝撃を投じたからだ。調査報道研究プラットフォーム「コレクティブ」が報じた内容だ。

ポツダムのレーニッツゼーでの会議の参加者の中には、ザクセン・アンハルト州議会のAfD会派リーダー、ウルリッヒ・ジークムント氏、バイエルン州のAfD連邦議会議員ゲリット・ホイ氏、元AfD連邦議会議員のローランド・ハートヴィッヒ氏(ワイデル党首の個人顧問)らも含まれていた。同会議が報道されると、AfDは「ポツダム会議は私的な会合」として距離を置くと共に、同会議に参加したワイデル党首の個人顧問を解雇している。

同会議にはそのほか、オーストリアの最大極右組織「イデンティテーレ運動」(IBO)の元代表マーテイン・セルナー氏の姿もあった。同氏はニュージーランドのクライストチャーチで2019年3月15日、2カ所のイスラム寺院を襲撃し、50人を殺害したブレントン・タラント(当時28)から寄付金を受け取っていたことが判明し、物議をかもしたことがあった。

ドイツのメディアによると、セルナー氏は会合で、北アフリカに最大200万人を収容する「モデル国家」を構築し、難民を収容するという考えを提示したという。第2次世界大戦の初めに、ナチスはヨーロッパのユダヤ人400万人をアフリカ東海岸の島に移送するという「マダガスカル計画」を検討したことがあったが、セルナー氏の「モデル国家」はそれを想起させる。

(同会議については、このコラム欄で「もう一つの『ポツダム会議』の波紋」(2024年1年13日)のタイトルで詳細に報じたから、関心がある読者は再読をお願いする)。

ポツダム会議の内容が明らかになると、AfDへの批判の声が上がり、各地で抗議デモが展開される一方、AfDの政治活動の禁止を求める声が飛び出してきている。

ハノーバーではニーダーザクセン州のシュテファン・ヴァイル首相(社会民主党=SPD)が集会参加者に対し、極右派に対して明確な立場を取り、人権と民主主義のために立ち上がるようにと呼びかけた。デモ参加者は「私たちはカラフルだ」「ファシズムは代替案ではない」などのスローガンが書かれたポスターを掲げた。

そのほか、ドルトムント、シュトゥットガルト、カッセル、ギーゼン、ニュルンベルク、エアフルト、ハンブルクなどの都市で抗議デモが開催されている。抗議デモ参加者は「憎悪、扇動、排斥に反対」と叫ぶ一方、「ナチスと反ユダヤ主義者は国外追放すべきだ」といった過激なスローガンが書かれたポスターも見られたという。ハンブルクでは参加者が8万人と溢れ、余りにも多いため参加者の安全が保障されないとしてデモ集会は予定より早く解散させられたという。いずれの抗議デモ集会も平和裏に行われた。

ノルトライン・ヴェストファーレン州のヘンドリック・ヴスト首相(CDU)は、「AfDは極めて危険なナチ党だ。AfDは基本法に基づいていない」とX(旧ツイッター)で書いている。一方、経済界からもシーメンス・エナジーとダイムラー・トラックの監査役会会長、ジョー・ケーザー氏は20日に掲載されたロイターとのインタビューで、「AfDに投票する人は誰でも、わが国と国民の繁栄を失うことを選択していることになる」と警告を発している。また、ユダヤ人中央評議会のヨーゼフ・シュスター会長は抗議デモ集会の開催を歓迎し、「社会の中間層が立ち上がっていることを本当にうれしく思う」とアウグスブルガー・アルゲマイネ紙(20日付)に語った。

ただ、AfDを禁止すべきか否かでは、政治家や国民の間でも意見が分かれている。ロンドンの「過激主義研究所」のユリア・エブナー博士は20日、オーストリア国営放送(ORF)とのインタビューで、「AfDの禁止には反対だ。逆効果だ。AfDは犠牲者の役を演じることで有権者の支持を更に集める危険性が出てくる」と指摘、禁止ではなく、民主的な抗議デモを継続していくことを勧めている。

ちなみに、ドイツでは1956年に「ドイツ共産党」(KPD)が禁止されて以来、政党が禁止されたことはない。ドイツ民間放送ニュース専門局ntvによると、AfD禁止賛成47%、反対48%だった。AfD禁止問題はドイツ国民を2分している。なお、複数の世論調査によると、AfDは20%以上の支持を獲得し、ショルツ首相の与党社会民主党(SPD)を大きく上回っている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年1月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。