10年後コールセンターは有料サービスになる

黒坂岳央です。

日経新聞の記事によると、コールセンターにおいて生成AI(人工知能)の導入が急速に進んでおり、実際に平均で5割の業務時間削減効果の見込みがあるのだという。筆者は元々、コールセンターで5年ほど勤務経験があるのでとても興味深く感じた。コールセンターの業務内容と生成AIは極めて相性がよく、すでに運送業者をはじめ数々の企業が積極導入して成果を上げている。

この流れが進めば、将来的に人間のオペレーター対応は有料サービスになる可能性を主張したい。以前にahamoで人的サポート有料化が話題になったが、労働人口減少と人的コスト高のトレンドで今後この流れは止められない。人間による無料サービスは減っていくし、減らざるを得ない。消費者側もそれに慣れておく方が良いだろう。AIの進化を考えるとおそらく10年以内にその未来がやってくる。

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生成AIがコールセンターを救う

筆者が働いていたコールセンターは、通販ショップ、債権回収、携帯電話、チケット販売、クレジットカード、PCサポート他、色んな場所で電話を取ってきた。業務内容はどのセンターでもほぼ同じであり、電話及びEメールやチャットで問い合わせに対応し、終わったらやり取りの履歴をキーボード入力する。一次受付のオペレーターで対応できないクレームや特殊な対応は社員やスーパーバイザーへエスカレーションするという流れを組む。これらはほぼベルトコンベアのような流れ作業であり、多ければ一人当たり1時間で8-10コール、1日80コールほどさばく計算だ。

9割以上の顧客のコール内容はほぼテンプレで対応できるため、生成AIはこの業務を代替可能だ。運送業者ではすでにAIが荷物の再配達や確認して折り返し電話をするための一次受付として機能しており、自分は実際に何度か電話をかけたことがあるがあまりに音声認識が優れていたので驚いた。ソフトウェアの電話によるライセンス認証などもAIで対応する企業もある。一方でハードクレームや特別対応案件以外はAIがこれまでの役割を引き受けるなど棲み分けがなされている。

企業におけるコールセンターは大きなコストセンターである。自分が勤務してきた会社では月間で数百万円のオーダーだった。しかもオペレーターを収容し、隣の通話音声が入り込まないよう物理的スペースの確保も必須になる。だからコールセンターは肥大化し、都心部においては特にコスト高は悩みの種になる。

加えてオペレーターのシフト管理や、出社してもコール数が少なければオペレーターはムダなコストになる。かといってコール数が想定より多ければ待ち時間が伸びて顧客不満につながる。こうした難しいハンドリングが迫られるコールセンター運用を生成AIが救うだろう。

人間が対応する必然性

それでも生成AIが対応不可能な案件も存在する。たとえばアメリカ大手ITテックの多くは基本的に電話窓口を置いていない事が多い。いや、Eメールすらなく、ユーザー同士が助け合うコミュニティに聞いてくれという対応のところもある。だが、こうした企業が一切電話窓口を置いていないかというそうではない。

たとえばサービスをヘビーに使うと、特別に専属担当者が就いたりする。筆者は実際、複数社で経験してきた。いきなり電話で挨拶が入り、「今後あなたの担当になった」とマレーシアやシンガポール在住のスペシャリストが専属でついて様々なアドバイスやサポートをしてくれるのだ。その対応力、技術や知識量は申し分ない。何を聞いても即答してくれる頼もしい味方だ。その対応力は明らかにバイトや派遣レベルではない。困った時にすぐ相談できるのは大変心強い。だが、こうしたサポートは一般公開しておらず、あくまで一部のロイヤルカスタマーに向けたサービスであり、実質的な「有償のサポートセンター」として機能している。

生成AIではなく、人間が対応する必然性は存在する。多様な顧客ニーズを汲み取り、ユーザーのKPIを達成するためのオーダーメイドなサポートだ。これは最大公約数的かつテンプレ対応が得意な生成AIでは対応できない。だが、コストとの兼ね合いでそんなスペシャリストをすべての顧客に開放できるわけでもない。こうしたサポートにおけるVIPサービスが今後、広がる予感がしている。すなわち、9割のテンプレ対応は生成AIが担い、ロイヤルカスタマーには人間の担当者が対応する形だ。

コールセンターは感動労働と言われる。ストレス発散のクレームや、寂しさから話し相手を求める利用者も少なくない。どこのセンターにいっても一定数そうした顧客はいた。だが、生成AIが台頭すれば機械相手にそんなことをするのはバカバカしくなり、通話時間は短縮され、ムダなコールも減少するだろう。企業は合理性を追求するので、10年後のサポートセンターにおける景色は一変するだろう。労働人口減少はAIが代替するという未来の話は、コールセンターにおいて現在進行系で進みつつある。

 

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