1月18日のNature誌のニュース欄に「Fingertip oxygen sensors can fail on dark skin — now a physician is suing」と「Medical AI could be ‘dangerous’ for poorer nations, WHO warns」という記事が掲載されている。
前者はコロナ感染症の流行で一般でも広く知られるようになった「指先につける血液の酸素飽和度を測定する装置が有色人種では正確でない」ことに対する訴訟だ。有色人種では数値が高い傾向となり、診断や処置が遅れることを問題視したものだ。この人種間差は数十年前から指摘されていたそうだが、何の対策も練られないままに今日に至ったとのことだ。
白人を対象として開発された医療機器の測定値が、有色人種では正確でないよう2020年1212月のNew England Journal of Medicine誌の「Racial Bias in Pulse Oximetry Measurement」というタイトルの論文によると、動脈血で測定した酸素飽和度が88%を切っていたにもかかわらず、オキシメー92ー96ー96%となっていたケースが、黒人では11.7%もあったそうだ(白人では3.6%)。皮膚疾患のAI診断の精度が黒人では低かったという報告もある。
二つ目の論文は、医療用AIが低所得国では危険なものとなるとWHOが警告したとの主旨だ。しかし、低所得国という表現は間違いだと私は思う。所得の問題ではなくて、科学的には人種間差、民族間差のはずだ。白人のゲノム情報を利用した疾患リスク診断は日本人では通用しない。日本も貧しい国になりつつあるが、やはり、どう考えても国の貧富の問題ではなく、民族間の差が不正確さの原因だ。
同じ疾患を持つ患者さんに、同じ薬を同じ量だけ投与しても、効く人・効かない人、副作用や副反応のない人・弱い人・強い人がいる。お酒を飲んだ時の反応も多種多様だ。個人差を理解するには、遺伝子多型や環境の違いなど多様性を理解することが不可欠だ。これを理解することが、健康で長生きすることにつながり、医療産業の発展にもつながる。
人工知能も突き詰めていけば、多様性を理解する科学である。多様性の理解の基礎は遺伝学である。この分野の教育がお粗末な日本の弱点がボディーブローのように日本の弱体化を引き起こしている。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2024年1月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。