どうして若くて組合の無い会社の方が給料が高いの?と思った時に読む話

先日、こんな記事が話題となりました。

【参考リンク】スタートアップ、平均年収700万円超え 上場企業上回る 日経新聞

スタートアップ、平均年収700万円超え 上場企業上回る - 日本経済新聞
日本経済新聞社が実施した2023年の「NEXTユニコーン調査」によると、正社員の年収を開示した78社の23年度の平均見込み額は前年度比6%増の710万円だった。700万円超えは調査開始以降初めてで、上場企業を上回る水準だ。人材の獲得競争が激しさを増すなか、有望スタートアップは待遇面でも大手企業に対抗できる実力を備えつつ...

日本では長らく「大企業に就職するのが正解」といった考えが主流でしたから、隔世の感がありますね。

でも冷静にひも解いていくと、実はスタートアップの方が高賃金になって当然なんですね。

大手にはおいそれとお給料払えないしがらみが色々と存在する一方、スタートアップにはそういうしがらみがありませんから。

大手が賃金を上げられないしがらみとは何でしょうか。そしてこのトレンドは続くんでしょうか。良い機会なのでまとめておきましょう。

これから社会に出る人はもちろん、キャリア後半戦に臨む人たちにもキャリアと賃金を考える良いきっかけになるはずです。

歴史が長く組合のある会社ほど賃金が上がらないワケ

大手とスタートアップで給料に差が出やすい構造的な事情は、主に以下の2点です。

・そもそも採用対象が違うから

前回述べたように、大手企業はポテンシャル採用で採用した人材をゼロから自社で育成するのが今でも主流です。

当然ながら、社内には育成に大成した高度人材もいる一方、育成に失敗したダメ人材、採ったばかりの若手もいるわけです。当然ながら平均給与はとびぬけたものにはなりません。

一方、スタートアップはそもそも人を育てる余裕がないため、採用は即戦力重視の傾向が強く、中途採用がメインです。

新卒採用を手掛けているところも、多くは理工系の修士以上の専門職ですね。

そういう人材を採ろうとするなら最初からある程度の金額は出さないといけないわけです。

同じプロ野球チームでも、3軍まで抱えるチームと1軍だけのチームの年俸を比較するようなものですね。

・労組の有無

「どっちも同じ終身雇用のもとで回しているのに、なぜ大手の方が賃金が上がりにくいのか」という質問もたまにされますが、筆者は労組の存在が大きいと感じています。

スタートアップでは業績を理由とした賃下げは普通にありますし、会社によっては事実上の解雇に近い扱いをするところもあります。

そういう柔軟性があればこそ、入り口で高い報酬を提示できるわけですね。

日本の労働法制のもとで経営されていても、従業員を定年まで雇用することを前提に経営しているスタートアップを、筆者は一社も知りませんね。

一方、社内に従業員を代表するような労組がある会社ではそんなことはまず不可能です。

彼らは賃下げや解雇が行われないような水準を意識しつつ、その中で最大限の賃上げを(多くは今でも横並び一律で)要求します。

それも70歳まで雇ってもらうという条件つきで。

人材育成に失敗したダメ人材、仕事が無くなってぼーっとしてるだけの人たちも含めて、労組は交渉するわけです。

【ぼーっとしてる人の参考リンク】横浜市職員が業務用PCで「ソリティア」など64時間もゲーム 停職2カ月

横浜市職員が業務用PCで「ソリティア」など64時間もゲーム 停職2カ月 (2024年1月22日掲載) - ライブドアニュース
横浜市が22日、51歳男性係長の停職2カ月の懲戒処分を発表した。業務用パソコンで約64時間も「ソリティア」などをしていたという。「順守意識が下がっていった。自制心が効かなかった」と話しているそう

「だったら労組のある会社の方が人に優しいじゃない」

と思った人もいるかもですが、それはちょっと違います。

要するに労組は、人材育成に失敗した人も、仕事無くなったオジサンも、70歳まで雇い続けられるよう、みんなの賃金を抑える努力をしているわけです。

これが、日本企業が過去最高益を続々と更新する一方で、実質賃金が19か月連続で下がり続けている理由ですね。

ストなんてぜんぜん起きてないでしょ。そもそも労組は賃上げなんて求めてないんです。彼らが要求しているのはとにかく細く長く雇用を維持することなんです。

フォローしておくと、筆者はだから労組が悪だと言っているわけではありません。彼らのほとんどは悪気なく良かれと思って「横並びで賃下げも解雇も無し、で年金支給開始まで雇用」を要求しているんでしょう。

でもそれが結果として組織を硬直化させ、優秀な人ほど組織から飛び出す一方、そうでない人ほど滞留するという結果を生み出している現実は直視すべきでしょう。

さて、実は上記のような話は、筆者はいろんな場所で10年以上前からしてきた内容です。要するに優秀層ならスタートアップに行った方がいいよということですね。

でも10年前だとやはり大手の方が採用では圧倒的に強かったですね。理由は後述するように、大手の年功序列のセクセスストーリーがまだ健在で、そっちの方が夢があると感じる人が多かったからです。

初任給が多少高いくらいでは響かなかったんですね。

でも平均賃金でもスタートアップが上回るようになったというのは、大手の年功序列のサクセスストーリーを完全に超えてきたということですからね。

年功序列の停滞が隠し切れないところまできたか。それともリスクを取りさえすればリターンが得られるという当たり前のことが雇用においても実現するようになったのか。

多分その両方なんでしょう。

以降、

  • 企業のストーリーを見極めるべき3つのポイント
  • どちらのストリーにかけるかではなく、どう働くかの問題

※詳細はメルマガにて(夜間飛行)

Q:「新卒採用の手間とコストが上がり続けています」
→A:「各社とも消耗戦やってますが、あえていうなら……」

Q:「人事異動で仕事が無くなったんですが」
→A:「皆が見て見ないふりをしている課題に取り組むチャンスです」

雇用ニュースの深層

Q&Aも受付中、登録は以下から。
・夜間飛行(金曜配信予定)


編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’sLabo」2024年1月25日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。