嘘つきサンチェス首相
自らが首相で居続けるために国や国民を犠牲にしても構わないという姿勢を持った人物。それがスペインのサンチェス首相である。また言ったことを後になって覆すことも平気でやる人物だ。これが彼のマキャヴェリズムである。
例えば、以下がその具体例だ。
- 選挙前に「(極左政党)ポデーモスとは連立した政権はつくらない」と言っておきながら最終的には同党と連立政権を成立させた。
- カタルーニャで独立の為の「違法住民投票を実施した州の閣僚らの赦免はしない」と言いておきながら最終的には赦免した。
- テロリスト政党「ビルドゥとは関係を結ばない」と約束しておきながら最後は協定を結んだ。
- カタルーニャ独立の為の違法住民投票の推進者プッチェモン元州知事はスペインで裁かれることを拒否してベルギーに逃亡。その彼を「絶対に恩赦しない」と言っておきまがら、今では恩赦する方向に動いている。
彼の自らの発言を覆した理由はただひとつ。首相のポストに居座るためである。更にそれを以下に詳しく説明して行きたい。
独立派政党とテロリスタ政党のお陰で首相になった
今年7月の総選挙の開票結果、与党と野党第1の国民党がそれぞれ首班指名を得るのに4議席の票がたらなかった。獲得した議席数で一番多かった国民党のフェイホー党首が首班指名に臨んだ。しかし、過半数の賛成票を得ることができなかった。そこで今度は暫定首相だったサンチェス氏が臨んだ。過半数の議席を獲得。首相として継続することが決まった。
この両者の唯一の違いは、後者は独立派政党4党と元テロリスタ政党ビルドゥからの支持を得て過半数の票を獲得したからである。首相のポストを維持する為には国家の統一を妨げようとする独立派政党や800人を殺害したスペインのテロリスタの政党から支持票を得るように彼らに有益となる交換条件を提示して彼は交渉したのである。
道徳的にそれは許される行為ではない。しかし、政権を維持し続ける為にはスペイン国民さえ犠牲にすることを厭わない。それが現在のスペインの首相なのである。
政治逃亡者が恩赦されてスペインに戻れる
サンチェス首相が最も必要としていたのは7議席をもっている政党ジュンツである。その党首はベルギーに逃亡しているプッチェモン氏だ。プッチェモン氏は2017年にカタルーニャで独立の為の住民投票を実施した主犯者である。彼は反逆罪と横領罪で逮捕される前にベルギーに逃亡。皮肉なもので、その逃亡者がサンチェス氏が首相になる決定を下したキーマンとなったのである。
その為の交換条件は、プチェモン氏を含め2012年からカタルーニャで始まった独立の為のプロセスに加わって法廷から刑罰を処せられた被告人多数を恩赦するということである。勿論、この恩赦が実行されればプッチェモン氏はスペインに帰国できるようになる。
プッチェモン氏以外の逃亡せずカタルーニャに在住している州の元閣僚らはすでに赦免されている。サンチェス首相が赦免させたのである。それを彼を含め一同を恩赦するように要求しているのである。そして今、議会の承認を得てその方向に進んでいるのである。
この恩赦に対して、警察や治安警察は勿論強い不満を表明している。なぜなら両警察は独立運動のプロセスの課程の中で発生した暴力デモを取り締まるのに負傷者も出て、数人の警官は怪我で職場に復帰できなくなった者もいる。暴力を振るった者も恩赦にするというのは彼らのこれまで犯した罪をすべて否定することになるからである。
また司法でも不満を表明。これは裁判での判決を覆して政治的に恩赦を与えようとするもので、司法の正当性を無視する行為に繋がるからである。また憲法でもそれは否定されている。それを敢えてサンチェス首相は無視してプッチェモン氏ら元州政府の閣僚らを恩赦する方向に向かわせているのである。
サンチェス首相のさらなる譲渡
カタルーニャ州政府で現在政権を担っているカタルーニャ共和左派政党からもサンチェス氏は首班指名で支持票を得るために、カタルーニャ州に今後150億ユーロの投資を約束し、これまでの負債の棒引き、近距離電車の運営を同州に一任するなどなど約束した。
またバスク地方の独立派バスク国民党に対しても自治政府が中央政府に依存せず恰も独立国家であるかのように振舞える社会保障機構の変更やバスク警察の統括権の拡大などを許可した。スペイン国家警察と治安警察をバスク地方から完全に撤退させようとしているのである。これはカタルーニャでも同様にカタルーニャ警察に多くの権限を譲渡して同様に国家警察と治安警察を州外に撤退させるように交渉を進めている。
また元テロリスタ(テロリスト)政党ビルドゥと連携してナバラ州の牛追い祭りで有名なパンプロナ市の市長のポストをビルドゥの議員に与えた。ナバラ州はバスク州政府が将来的にはバスク州の配下にすることを望んでいる。
独立派政党とテロリスタ政党の前に国家権威の喪失
スペインがその為に払う金銭面の負担、更に独立派政党に対し国家としての権威の喪失は甚大だ。彼が属する社会労働党の議員の中にもこれら一連の譲渡に内心反対している者も多くいる。勿論、元首相のフェリペ・ゴンサレス氏や党内の多くの重鎮がそれに反対を表明している。彼の方針に反対して離党している党員もいる。彼らはサンチェス首相が率いている社会労働党は別の政党で、社会労働党ではないと指摘している。
しかし、スペインで議員になるためには党の執行部がそれを決めるので、執行部の決定には逆らえない。そのトップにいるのがサンチェス氏だ。それに背けば議席を剥奪されるのは目に見えている。となると、明日から職場を探さなくてはならない羽目になる。だからサンチェス氏の方針に従わねばならないのである。
サンチェス氏の現政権は長くは続かない
このようなサンチェス氏の首相のポストに何が何でもしがみ付こうとする姿勢の前に、この新政権がいつまで続くことができるのか未定である。何しろ、独立派政党はそれぞれ望んでいるものが異なる。それを一つにまとめるのは至難である。したがってサンチェス首相の政権が長く続くとは思えない。何しろ、サンチェス首相は全ての法案にスペインから独立を望んでいる独立派政党からの支持を仰いで行かねばならないからである。独立派政党にはそれぞれ望んでいることも異なっている。